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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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旧説帝都エデン

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「殺葵くんは察しが早い。あの御方は?あれ?を封じるために眠りに堕ちた。けれど、?あれ?の力が徐々に外に影響を及ぼしはじめた」
「やはり、私は奴の掌の上で踊らされているのだな」
「どうしますか、あの御方を眠りから醒ましますか? そうすれば殺葵くんの我が君も目覚めますよ」
「私は疲れた……」
 それ以上何も言わず、殺葵は雪兎のもとを離れて空を見続けるだけだった。
 雪兎は独り言を呟いた。しかし、それは明らかに殺葵に聞こえる声だった。
「ひとりの女性に仕えていた二人の騎士はある事情によって敵同士となりました。戦いはあの御方が"あれ?を封じることによって終結し、あの御方によって二人の騎士は封印されました。しかし、?あれ?は封印されている敵の騎士を抹殺しようとしたのですよ。その時に一人目の騎士の封印は不本意な形によって破られてしまいました。その後、?あれ?はもう一人の騎士の封印を解き、先に復活した騎士を殺させようとしました。殺葵くん、君の我が君は、今でも君にとって我が君なのですか?」
 殺葵は答えなかった。雪兎の声が聞こえてないように、何も反応を示さない。そこで雪兎は言葉を続けた。
「君は封印されたままの方がよかったのではないかい? 復活したばかりの君は明らかに?あれ?に精神を支配されていたからね。でも、今は違うのだろう?」
 やはり殺葵は何も答えない。
 息を吐いた雪兎は殺葵と同じく空を仰いだ。
 この場所は平和だ。不変が続く。二人を除いては……。
「殺葵くん、さっきのセーフィエルという女性はどちらの味方だと思うかい? 僕が思うにどちらでもないね。それだけに目的が不明だよね。ああ、ところで時雨くんの話だけど……」
 殺葵の顔つきが変わる。雪兎はそのまま話を続けた。
「時雨くんは記憶喪失らしいけど、どこまで記憶は戻ってるんだろうね。あと、どこまでが偶然で、どこまでが必然なんだろうね?」
「私が感じるに、時雨は完全に記憶を取り戻している」
「あと、時雨くんが再び封印されない理由はわかるかい?」
「…………」
「あの御方は?あれ?の復活が近いと考えていてね。?あれ?の影響が外に出ているんだよ。それを無意識のうちに時雨くんは解決または排除しているわけだよ」
「ひとつ訊きたいことがある」
「なんだい?」
「貴様はどこから情報を仕入れている?」
「外の情報はあの御方から聴いているんだよ。あの御方は眠りながらも外と通じているからね。あの御方はたまに僕の前に姿を現してくれるんだよ。殺葵くんが来てからは一回も姿を現してないけどね」
 殺葵が素早い動きで後ろを振り返った。そこに人の気配を感じたのだ。
 煌びやかな法衣を纏った童女はニッコリと笑いながら両手を元気よく振った。
「お久しぶりぃ〜っサッちゃん」
 童女を見て怪訝な顔をする殺葵。
「……女帝」
 童女は女帝と呼ばれた。そう、彼女こそが帝都エデンの女帝。しかし、その姿は一般に知られているものではなかった。人々の前に姿を現す女帝は20代と思わし女性だった。
 殺葵とは対照的に、雪兎はニコニコしながら童女に手を振り返した。
「こんにちは女帝様。ちょうど女帝様の話をしてたところなんですよ」
「わざわざ説明することもないよ。ここはアタシの世界なんだから全部知ってるよ。セーフィエルの進入を許したのはアタシだし。あの子が何をしようとしてるのか見定めようとしたんだけどね、わかんない」
 姿も物腰も口調も、誰も思い描いていた女帝とは違う存在だった。しかし、これが本物女帝なのだ。人前に姿を現してした女帝は魔導でつくられた幻であったのだ。
 女帝はその場に立ち尽くしていた殺葵の正面に立ち、顔を上げてニッコリと笑った。
「アタシの側に付く気ない?」
「私はもうどちらの味方にもならないと決めた」
「ふ〜ん、アタシの敵になんないだけマシか」
 考え深げに頷いた女帝は二人に向かって手を振って背を向けた。その小さな背中に雪兎が声をかける。
「もう行くんですか?」
「ちょっとサッちゃんの顔見に来ただけだし。現実世界はいろいろと忙しいんだよね。うんじゃ、ヒマができたらまた来るよ」
 女帝は姿を消し、殺葵が呟いた。
「何もお変わりないな……」
「僕らもここにいる限りは変わらないよ。でも、もしかしたら……」
 雪兎は言葉半ばに口をつぐんで、殺葵もそれに対して何も言わなかった。
 二人は沈黙する。また、誰かがここに来るまでどちらも口を開かないだろう。
 ここは刻の狭間の夢幻郷。
 夢が醒めるまでは不変と永遠が続く。二人が刻むこころ以外は何もかもが不変だった。

 夢幻郷の楔 完