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Journeyman Part-2

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 2週間ほどするとチームとしてのまとまりも見えて来た、ヘッドコーチやディフェンスコーディネーターの指導だけで実現できることではない、全盛期を過ぎているとはいえ、要所要所にベテランのビッグネームがいることが大きい、ジムのチーム作りの妙だ。

 オフェンスに目を向けると、やはりティムが目立つ。
 実戦形式の練習となると、リックはパス失敗が目立つのに対してティムは速いパスをビシビシと決め、プレーが崩れてもその脚力でピンチをチャンスに変えられることを早くも証明し始めている。

「ティムは予想以上に良いな」
 スタンドに陣取ったジムがビルに声をかける。
「そうですね、身体能力的には期待通りですが、思い切りが良いし、センスは予想以上ですね」
「そうだな……」
 会話の内容だけ聞けば、ティムが開幕戦からスターターの座についてもおかしくないように聞こえる、だが、2人の声の調子を聴けば100%満足しているわけではないことがうかがえる。
「リックは順調だな」
「ええ、さすがに今やるべきことをわきまえてますよ」
 一方、あまり調子が上がっていないように見えるリックには満足している様子だ。
 その理由はプレーの内容だ。
 ティムのパスは大学時代からの盟友であるジミー・ヘイズに集中している。
 リックはレシーバー陣だけでなくランニングバックのケンやルーキーのクリス・デイビス、そしてフルバックのゲイリー・パーカーにと投げ分けている。
 それもディフェンスを振り切れていないレシーバーへのパス、サイドライン沿いへギリギリのパス、フィールド中央へ低目のパスと難しいシチュエーションを選んで投げているのだ。
 これまでも新しいチームに加わる度に、リックはレシーバー陣の能力を見極めなくてはならなかった、それはサンダースでも同じことだ。
 球際の強さ、競り合いの強さ、キャッチスキルの高さ、それを見極めなくてはレシーバーを生かせないからだ。
 ランニングバックへの横パスは通って当たり前の易しいプレイだが、パスが通っただけではゲインは見込めない、キャッチしてからのランが重要なのだが、当たりに強くて短いヤードを確実に稼いでくれるランニングバックもいれば、当たりには弱いが抜け出せればビッグゲインに繋げられるランニングバックもいる。
 リックは通って当たり前、ゲインして当たり前のパスよりも、困難な状況で使えるプレーを探し、リスクの大きいプレーを見極めようとしていたのだ。
 
 そんな中、ドラフト7巡目で指名したランニングバックのクリス・デイビスが『化けた』。
 クリスは駿足で機敏なランナーだが170㎝70㎏と小柄で軽量、それゆえドラフトではあまり注目されていなかったのだが、リックからのスクリーンパスを受けているうちにディフェンスの動きを見極められるようになったのだ。
 大学時代、彼はパスキャッチがあまり得意ではなかった、ボールを確保するよりも先に走ることを考えてしまう傾向があったのだ。
 しかし、リックからボールをまず確保するように繰り返し注意され、スピードを落としてでも確実にキャッチするように心がけると、そのことによってディフェンスが良く見えるようになったのだ。
 大学時代はスピードこそ自分の生命線と考えていたのだが、『止まる、捕る、見る』そう自分に言い聞かせてプレーしてみると、ディフェンスがどう動こうとしているのかが良く見えるようになった、それが読めたら逆の動きをすれば良い、そうやってスクリメージラインをすり抜ければ後は自慢のスピードで振り切れば良い。
 そもそもクリスのような軽量でスピードのある選手は、ショートヤーデッジを確実にゲインすることなど求められていない、失敗すればロス、成功すればロングゲイン、それで良いのだ。
 パワフルなランが必要な時にはフルバックのゲーリー・パーカーがいるし、何よりオールラウンだ―のケン・サンダースがいる、あまり強いとは言えなかった大学時代のチームではオールラウンダーであることが必要だったが、プロでは自分の特徴を生かす事さえ考えれば良い、そのことを100%理解して、自分を生かす方法も見つけたのだ。
 そして、同じ事を本業のランでも心がけるようになると、ディフェンスの前でスピードを落とし、かわしてスクリメージをすり抜け、その後一気に加速すると言うスタイルを確立することが出来た。
 そうして、彼は一躍サンダースの秘密兵器に名乗りを上げたのだ。
 ベテラン陣の調整はまだまだ半ばだが、若い力が伸びて来た状態で、サンダースはプレシーズンゲームを迎えた。

作品名:Journeyman Part-2 作家名:ST