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爺ィの人生未だ現役なり

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爺ィの人生未だ現役なり

 これで○○歳若返る!などという、アンチエイジングサプリメントの広告ではない。

 実に下だらない、しかも不謹慎な話題で恐縮だが……。

 朝夕の通勤ラッシュに縁のない生活になって久しい。
 もっとも、現役時代は車通勤であったり、逆方向への通勤だったりと満員電車の経験は少ない。
 最近、電車に乗るときは空いた時間帯がもっぱらなので座れることも多い。混雑にはほど遠い車内、座れなくとも吊革につかまってのんびりと車窓を眺めたり、創作の役に立てようと漏れ聞こえてくる会話に耳をそばだてたりすることも楽しみのひとつだ。
 他人が集中しているスマホ画面をのぞき込むほど下品ではないが、読書をしている人を見ると、ついどんな本なのかが気になってしまう。
 岩波新書を読みながら書き込みをしていた編集者風の女性、何度も何度もページを戻しながら話題のミステリーを読んでいた男子大学生。あなたたちの前途に良き読書人生が広がっていることを願う。

 運良く(あるいは運悪く)座ろうとしたときに不安を覚える年齢になってしまった。自分が座ったことで隣の人が不快に思い、席を立ってしまったら……。そんな情けない不安だ。万人に気に入られようとは思わないが、無用な(心の)摩擦は避けたい年齢になったということか。
 もしも座った途端、両隣が立ち去ってしまったら、しばらくは立ち直れずに、終点まで呆然と過ごすかもしれない。幸いそんな経験はせずにすんでいるのだが、今後はどうなることやら。

 そんな中、僥倖が訪れることもある。妙齢の女性が隣に座ってくれた時がそれだ。「あなたを同じ人間と認めていますよ」そんな励ましをもらったような気になる。「死刑囚最後の晩餐」という施しとは思わない爺ィなのである。
 ましてやそれが昨今話題の女子高校生だったら、心でガッツポーズをして叫んでしまうだろう「俺はこの世の支配者になった!!!」と。
 勘違いしないでいただきたいのだが、こっそり寝たふりをして頭を女子高生の肩に預けることはしない、況(いわ)んや深呼吸をして芳香を楽しもうなどとも思わない。この際、断言しておきたい。
 ただただ、今の幸せを心底かみしめるだけなのである。

 そこで世のご婦人方にお願いなのだが、車内でしょぼくれた黄昏老人を見かけたら隣に座るのを躊躇わないでもらいたい。いや、積極的に隣に座っていただきたい。隣が空いていなくとも膝の上なら尚良し。人助けだと思って一歩足を踏み出す勇気を持ってもらいたい。
 あたくしはそれをセクハラだ! とは言いませんから……。