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桜恋う月 月恋うる花

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第1章





 上座には土方さんと山南さんが腰を下ろしている。

「改めて自己紹介させて頂きます。神矢静香と申します。ある特殊な力を持つ一族の出身です」

 お茶やお花のお免状は伊達じゃない。綾乃は洋装を好んでいるけど、私は和装の方が好きだから、大学へ行く時とか友人と出掛ける時は洋服だけど普段は和装だから、着物での身のこなしには慣れてる。

「私があそこにいた事情ですが、本当の事を言っても皆さん、お信じになられないと思います。」
「へぇ?」

 沖田さんが殺気を向けてくる。でもね? その程度の殺気で私を脅せると思わないでほしいわ。

「普通は信じませんよ。いきなり、『私は未来の世界から来ました』なんて言われても」
「はぁっ!?」

 反応は、意味が理解らないという顔をしている人と、眉を顰めている人と、ふざけるなという表情をしている人とに分かれたな。

「かてて加えて、私は一人ではありませんの」
「一人じゃない?」
「先に申し上げておきますけど、攻撃しないで下さいね。反射的に反撃しますから。その上で、沖田さんが良いかしら? 障子、開けて下さいます?」
「! まさか、いるの?」

 咄嗟に飛び出すように動いた沖田さんが障子を開け放つ。開けた視界に入ったのは月明かりに照らされた静かな庭。

「? 誰もいないじゃない」

 当惑している沖田さんの肩越しに、気配のする上空へ視線を向ける。

「和麻さん。お待たせ。綾乃と煉も一緒に降りていらして」

 風が緩やかに舞い、綾乃と煉を両腕に抱き込んだ和麻さんの姿が現れる。
 突如姿を現した三人に、新選組の幹部が浮足立つけど、私や和麻さんは落ち着いたものだ。
 山南さんと土方さんは、三人が纏う服装に眉を顰めて、私と三人を見比べている。

「山南さんと土方さんが仰りたい事は理解りますけど、確かに三人は私の連れですわ。三人とも、他の人間に姿を見られるのは拙いわ。早くお上がりなさいな」
「ああ」
「うん」
「はい」

 夫々に返事をして沓脱石の上で靴を脱ぎ部屋に入ってくる。
 沖田さんはかなり冷静な性質みたいで、三人が部屋に入ると周囲を見回して見られていない事を確認後、障子を閉めた。
 原田さんや平助君の視線が綾乃の脚に向いているので、私は取り敢えず纏っていた羽織を綾乃に渡した。

「何?」
「時代考証をしなさいね、綾乃。女の子が脚を晒さないの」
「あ、そか」

 上座の二人と向き合う幹部達との間に、私と綾乃、和麻さんと煉が向き合うよううに位置取りして腰を下ろす。綾乃の膝には私が渡した羽織が掛かる。

「紹介させて頂きますね。従妹の綾乃、また従兄の八神和麻さん、和麻さんの弟の煉です。年齢は、和麻さんが永倉さんと、私が原田さんと同じです。綾乃が数えで十九、煉が数えで十四だから千鶴さんと同じですね」

 綾乃と煉は低姿勢、和麻さんは慇懃無礼ながらも、礼儀に則った綺麗な所作で頭を下げる。

「……新選組の幹部の方達。上座のお二人は、眼鏡の方が山南敬介総長。お隣が土方歳三副長。下座の方達は、向かって右から一番組組長・沖田総司さん。十番組組長・原田左之助さん。八番組組長・藤堂平助さん。二番組組長・永倉新八さん、六番組組長・井上源三郎さん。千鶴ちゃんに添うて行った方が、三番組組長・斎藤一さん。局長の近藤勇さんはいらっしゃらないわ。皆さん試衛館出身者で、新選組の最高機密に関与していらっしゃるわ。斎藤さんと藤堂さんとが同じ年。山南さん、近藤さん、土方さんが一つずつ下がるのだったかしら。」

 和麻さんの視線は山南さんと土方さんを交互に見てる。やはりこの二人が曲者というか、策士だと見て取ったのかしら。
 煉の瞳はキラキラしてるなぁ。新選組なんて歴史上の人物を生で見られて興奮しているってところかしら。
 
「みんなタイプが違うけど美形揃いなのね」

 綾乃がぼそりと呟くのを聞き取ったのか、和麻さんの眉が微かに顰められた。

「和麻さんも美形じゃない」

 こそっと囁くと、綾乃は微かに頬を染めて唇を尖らせる。

「性格が不真面目過ぎて顔立ちを台無しにしてるんだもの」

 返ってきた答えに、思わず失笑してしまった。
 新選組のメンバーはいざ知らず、和麻さんには私達の会話は筒抜けなんだけどね。

「で?」

 促す声は土方さん。
 何のかんの言っても、副長の土方さんの方が実質上の主導権を握っているのよね。

「彼らの服装も、この時代の物ではありませんけど、後は……」

 今日は鍛練中に呼び出されたから、珍しくスマホを持っていたのだけど、何が幸いするか判らないものね。
 本来は、羽織の内側にポケットなんて着いていないのだけど、私は戦闘中に道具を入れたバッグを持ち歩くのが面倒だから、羽織に内ポケットを付けてそこに色々入れている。バッグとかだと戦闘中に邪魔になったり、落としたりする事があったら必要な時に使えないもの。

「綾乃、内ポケットにスマホあるから取り出してくれる?」
「あ、うん」

 綾乃が取り出したスマホでカメラアプリを起動して、正面の土方さんの写真を撮る。
 当然、こんな薄暗い場所だとフラッシュが機能するから、いきなり光ったそれにみんなが警戒する。
 クスッと笑みを零して、起動したアルバム画面で土方さんの写真を見せる。

「……土方さんの姿が」
「この時代の写真技術はこんな薄くて小型な機械での撮影は不可能。しかも色付きなどまだないでしょう?」

 土方さんの手の上にスマホを載せる。隣から山南さんが画面を覗き込んでいる。

「紙媒体にする為には私達の時代の技術の道具が要りますから、この写真を紙に、は出来ませんけどね」
「確かにこれだけでも、貴女方がこの時代の人間ではないのだろうと思われますね」

 山南さんが仕組みの見当が付かないと独り言ちながら、私の手にスマホを返してくれる。

「どれほど先の未来の人間だと?」
「百五十年ほどですね」

 百五十年。小さく呟いて、山南さんは感慨深そうに言う。

「僅か百五十年で、そんなに技術が進歩するのですか」
「そうですね。目覚ましい進歩を遂げますね。それでも進歩出来ない分野もあります」
「例えば?」
「生体実験などは禁止されています。薬の実験は動物実験で行われますから、成功までに時間が掛かります」

 私の言葉に緊張が走る。

「本題に入れそうだね。訊きたかったんだけど、君は何故『あれ』の首を刎ねたの?」

 早速口を開いたのは沖田さんだ。

「? 拘るような事ですか? 古今東西、化け物は首を刎ねて退治するものと相場が決まっていますよ」

 肩を竦めて答える。
 八岐大蛇然り。里見八犬伝の犬房然り。
 沖田さんてば言葉に詰まってる。
 その程度で詰まるなんてまだまだ未熟ですよ、沖田さん?

「詳しいよね」

 一々突っかかるなぁ、沖田総司。

「我が一族は、平安の昔から、陰からこの国を守ってきた一族でもあるのです」
「陰から……」

 これだけで意味が理解るようなら、それは表の世界だけで生きてきていないという事。流石にこの場にはいないようね。

「人外の力を有して悪意を以て人の世に害をなす存在を、人外の力を以て浄化し払ってきた一族なのですよ」
作品名:桜恋う月 月恋うる花 作家名:亜梨沙