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MEMORY 尸魂界篇

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12,奪還





 とても信じられる事態じゃねぇ。
 尸魂界の瀞霊廷で隠れもなき護廷十三隊六番隊副隊長まで登ってきた阿散井恋次は、現世の子供から齎された話が信じ難い事で、かといって頭から否定する事も出来ない事実も並べられていて、信じられない、信じたくないという思いに囚われながらも、自分の都合の良いように世の中回らない、と知ってもいた。
 信じ難い事実なら、今現在、目の前でも展開されている。
 死神の歴史の中で、こんなに小さな卍解など聞いた事もない。
 一護の卍解は、始解よりも刀が小さく細くなり、死覇装の裾が伸びて洋装の様に緩みのなくなる形に変わる。いっそ卍解を否定したいが、一護が纏う霊圧は始解時とは比べ物にならず、確実に膨れ上がっている。
 一体何の卍解なのかと思って見つめる恋次の視線の先で、瞬神夜一が一護のスピードに後れを取る場面があるのだ。

「速力、か。一護の卍解は全てが其処に集約されてるって事か。」

 いくら瞬神の二つ名を持つ夜一が相手とはいえ、卍解の状態で後れを取るようでは、一護の卍解は隊長には通じないだろうと恋次は思った。
 矢張り朽木白哉の気概を削ぐのは自分の役目だ、と恋次が思い定めた時、背後に一護が立った。

「れ~んじ。卍解出来るあんたは貴重な戦力なんだから、無謀な事して減らしてくれるなよ?」
「何が無謀だってっ⁉」

 驚いて振り向いた恋次は、自分よりかなり小柄な一護を見下ろす姿勢になる。見下ろされる事が気にくわないのか、一護は手近な岩にひょいっと腰掛けた。

「一人で白哉に対峙しようとか思ってんだろうが。」
「それの何が無謀だっ⁉」
「無謀に決まってんだろ。副隊長の癖に、自隊の隊長の卍解知らんのか?」
「……うちの隊長は、葬る相手にしか卍解見せねぇ主義だ。」
「そりゃ、結構な心掛けだ事。」
「茶化してんじゃねぇ。」

 立っている恋次より、岩に腰掛けている一護の目線の方が少しだけ高い。じろりと睨み上げる恋次に、一護は溜息を吐く。

「ちゃんと想像しろよ。朽木白哉の斬魄刀は千本桜。刃が千にも万に分かれて、降り頻る桜のような様から付いた名だろうが。」
「! 知ってんのか。」
「あのなぁ。情報収集は戦法の基本中の基本だぞ。」

 一護は半眼になって恋次をじろりと見据える。

「始解状態ですら千枚万枚の刃が降り注ぐって事は、卍解になったら数億の刃の嵐を食らう事になるんだぞ。四大貴族の朽木家現当主って事は生まれ持った霊圧自体並みじゃないんだ。その卍解だぞ。お前の方がよっぽど死神の世界を嘗めてんじゃねぇのか?」
「ほんに一護はよう理解っておるのう。」

 夜一が口を挟んでくる。

「一護は白哉坊の武器はなんじゃと思うておるのじゃ?」
「死角なし全方位からの攻撃が一番の強みだと思う。」
「全方位に防御を張らねばならんという事かの?」
「瞬速でだ。」
「ほう?」
「細かく分かれた刃が降り注ぐ攻撃って事は、刃の一枚一枚が白哉の霊圧を纏っているって事だろ。だったらスピードもあると考えるのが当然だぞ。」
「俺の卍解じゃ隊長の卍解に通じねぇって言いてぇのか?」
「有効性の問題だろ。斬魄刀ってのは持ち主の死神本人の気質が現れてるもんだろ。」
「そうすると、差し詰め、一護の斬魄刀は、短気が現れてスピードが優っておるのじゃな。」
「………あ~、そーかもね~。」

 恋次と一護の間に緊張感が高まると夜一が茶々を入れる。良い緩効材の役割を果たしてくれているものだ。

(流石は年の功。)

 声に出す事なく内心だけで呟いたのに、夜一が振り返った。

「何を考えおった?」
「いえ、別に。」
「そうかのう?」
「そうッスよ。」

 親しいわけでもない相手に、早々本心を見抜かれるほど軽率でもない自信はあった。

「……まぁ、良いわ。」

 自己評価を改める必要が生じたかも知れない。
 恋次が秘かに己の未熟さに打ちのめされている横で、夜一と一護が作戦会議を始める。

「双殛が解放されてから乗り込む心算か?」
「その時が一番警戒が緩むと思う。」
「確かにの。したが、それでは奴が間に合わねば燬鷇王の相手をせねばならぬぞ。」
「ルキア抱えた儘じゃ無理だろ。磔架に括り付けられた儘にしておいて燬鷇王を倒したとして、磔架壊して………問題はそれからだな。」
「儂がルキアを連れて逃げるのは容易いが………。」
「や、無理だと思う。」
「儂の力を疑うか?」
「まさか。けど、夜一さんにだって因縁の相手はいるんじゃね?」

 一護の言葉に、昔馴染みの顔が浮かぶ。

「現世への穿界門をその場で開けるわけじゃないし……。」
「まぁ、無理じゃな。」
「やっぱ、みんなを連れて無事に現世に帰るには、黒幕が正体晒すまで保たせるしかないか。」
「どうやって? 総隊長殿は『四十六室の命令』を絶対遂行しようとするぞ。」
「う~ん。じーさんの相手は、やっぱ昔馴染みにして頂くのが礼儀でしょ。」
「……浮竹は兎も角、京楽が動くと思うか? チャドを捕まえたのは京樂じゃぞ。」
「チャドを捕まえた人だから、ルキアを助けようと動く浮竹さんの援けになると思う。」

 一護が真っ直ぐな眼を夜一に向ける。
 純粋に真っ直ぐな眼は、本当なら危惧すべきなのだろうが、一護の眼を見ていると一護と同じように信じたくなる。
 真実のほどはどうあれ、京楽という男は、真相を見抜く目を持っている。黒幕の正体までは流石に判っていないだろうが、ルキアの処刑について不可解な点が多過ぎる事も事態の不自然さも理解っているに違いなかった。

「他となると……。」
「涅マユリ、だっけ。浦原さんの後釜。」
「おお。」
「奴は多分姫に興味持つと思うけど、石田が何とかするだろ。」
「何とか、とは……。」
「石田に、涅マユリが、石田のじーさんを見殺しにした挙句、滅却師の研究の為に研究材料として死んだ後も拘束して実験体にしてたって教えてやったし。」
「………。何故そのような事まで知っておる?」
「推測からなんだけどね。奴の浦原さんに対する対抗心と、興味を持った事には自分の都合を押し付ける事を正義と信じている狂信者らしい事から導き出した答え。」

 一護の推測が九割方当たっている事を恋次も確信した。恋次の顔を見て、夜一も一護の推測が正しいらしいと納得する。

「しかし、涅と遣り合うたら、石田は戦力として使えんようになるじゃろうの。」
「だなぁ。藍染隊長さんとやらが暗殺された事で、旅禍抹殺命令が旅禍捕獲命令に切り替わってくれて幸いかもな。」
「おめーらが疑われてんだぞっ⁉」
「隊長さんをあっさり暗殺出来る力量の主なんぞ、私らの中にはいないっつーの。」

 恋次の危惧に一護はあっさりと言ってのける。

「それが通ると、思ってんのか?」

 恋次が緒を低めると、一護は真面目な顔を恋次に向ける。

「私達に藍染という隊長を暗殺する理由はないんだ。双殛の丘でそれを証明してやるよ。」

 自分達の正しさが通ると思っているらしい一護に、恋次は溜息を吐いた。
 一護は恋次の溜息に苦笑する。

「勘違いをするなよ、恋次。」
「……どういう意味だ?」
「私は、自分達が正義だから勝つなんて思ってない。」
「何?」
作品名:MEMORY 尸魂界篇 作家名:亜梨沙