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言葉のるつぼ

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若者を中心に東京の人間が「めっちゃおいしい」というような言い方をしているが、どうも抵抗がある。東京育ちの自分が使ってきたのは「とてもおいしい」か「すごく~」、俗っぽくなっても「すっごく~」や「すげえ~」「えれえ~」である。
 こういう西日本的な言い方が幅を利かせてきたのは、一つには関西出身の芸能人がテレビで連発するせいもあるのだろう。
 昔、山口瞳氏が、野球のアナウンサーが「どまん中」と言うのを批判していた。東京的な言い方を基礎にしてアナウンサーが喋るなら、そういう時は「まんまん中」でなければ、というわけだ。
 だが、このような基準も時代につれて変わるものだ。最近では東京に住んでいても「まんまん中」を聞かなくなった。今や自分の感覚では「どまん中」にも抵抗はない。結局語感というものは、時代も含めて育ってきた環境によるのだろう。
 逆に関西の人間にとっては「とっても」や「すごく」「すっごく」などは、東京特有の気取ったような、甘えたような言い方として忌み嫌われるもののようだ。
 同様に「~ちゃって」も間投助詞の「さ」も嫌われる代表格だった。かつては関西のタレントが東京弁をからかう時は、必ずこの二つを入れていたものだ。
「僕なんてさ~。あれを食べちゃってさ~。すっごくおいしかったんだ」
 ところが、最近はどうか。例えば大阪で制作するテレビ番組「ミヤネ屋」では、しばしば大阪の街の人の声を聞いているが、皆さんが「~ちゃって」も「さ」も使って話すことに気づく。また、大阪の環状線の車内で若い女の子が「そやからさー」と関西関東混交の言い方をしているのを聞いたこともある。あんなに忌み嫌っていた言い方を取り入れてくれているのだ。
 メディアの発達や人の往来によって、今言葉は各地のものが次第に溶け合ってきているのだろうか。そして、それは、お上が決めたものでなく民衆自身の中から自然に共通語が生まれる萌芽だろうか。
 ならば、自分もそれに協力するため「めっちゃおいしい~」と叫んでみようか。でも、これにはまだ抵抗あるなあ。
作品名:言葉のるつぼ 作家名:ashiba