「熟女アンドロイドの恋」 第八話
「梓さん、おかしいよ。掛からないっていうことはこれまで無かったから心配だ」
「もしかしてということが考えられます。至急大使館へ連絡しましょう」
「そうだな。もうすぐここの担当者が来るから来たらすぐに連絡してもらえるように依頼するよ」
ほどなく迎えの車が来た。アメリカ国旗が掲げてあるから一目で政府の車だと分かる。
エイブラハムは事の次第を運転手に伝えた。車内電話に着信音がしてそれに答える。
「エイブラハムです。はい、そうですか。解りました。梓さんに伝えます。詳しくはそちらへ伺ってからということですね」
電話を切って梓に日本のアメリカ大使館で内藤は保護されていると伝えた。ホッとした表情に笑みがこぼれた。
「良かったです。でもどうしてラインに出れなかったのかしら?」
「たぶん持ち物を一旦保管されていると思う。大使館だからね、一応のセキュリティーが施されたのだろう」
「そうですか。ならいいのですが」
「詳しいことは夜にでも大使館に電話をしてもらって聞いてみよう。ホテルで荷物を預けたら、ロビーで少し休んでいてくれ。私は人に会ってくる。昼までには戻るから外に出掛ける時は注意するように」
「はい。解りました。ここに居ます」
アメリカ政府が手配してくれたホテルに二人は着いた。
エイブラハムはしばらくしてやって来たアラブ人らしき人物と外に出て行った。
梓は本国のアメリカ大使館関係者なのだろうと見ていた。
オープンカフェの片隅で二人はアラビア語で話し始めた。
「内藤さんがどうやら裁判の敵と思われる組織に拉致され、先ほどアメリカ大使館に確認したところ身柄は確保されたということだ。命の安全は保障されているようだが今後どうなってゆくのか不確定だから心配だ」
「エイブラハムさん、アメリカは今回の訴訟をマズいと感じているのだと思います。彼を取り込もうとしたことはなにか裏があるような気がしますが、どうお考えですか」
「うん、アメリカ大使館に身の安全を頼んだのは梓さんの知り合いだったが、その知り合いは内藤さんが何をしようとしているのか知っていたのだろうか、もしそうだとしたら埒も納得できるのだが」
「では、指示を戴ければ調べてみます」
エイブラハムとそう話したアラブ人はイスラム世界へのユダヤ組織からのスパイだった。
作品名:「熟女アンドロイドの恋」 第八話 作家名:てっしゅう