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ペルセポネの思惑

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 私が、峰澤 良和という男と初めて出会ったのは、新卒で就職した会社の入社式でのことだった。

 品行方正、容姿も端麗、入社試験の成績も抜きん出ていた峰澤は、入社した新人の中でも特に期待をかけられていた存在だった。一方、明らかに劣等生の側だった私は、本来ならば峰澤と口を利くことすらおこがましい立場。だが、新人の歓迎会でたまたま席が隣だったのをきっかけに交友が始まり、さらにその後同じ部署に配属されたこともあって、入社して半年も経つ頃には、私達はすっかり何でも打ち明け合える親友同士の間柄となっていた。

 その翌年の入社二年目。ひどく蒸し暑い夏のことだった。
「夏休みのついでに、久しぶりに実家に顔を見せたい」
峰澤は、そういう理由で一週間ほど有給休暇を申請した。会社側も特に異論なく申請を受理し、峰澤は酷暑の中、故郷へと発っていった。

 休暇が明けた日、出社してきた峰澤を一目見て、社内の人間は誰もが驚きを隠せなかった。峰澤は、すっかりやつれきり、目はうつろで落ち窪んでいる。いつもにこやかだった顔は明らかに相好が変わり、険のある顔つきになってしまっている。以前の快活さも消え失せ、やけに一人で落ち込んで何かに懊悩することが多くなった。そうかと思えば、些細なことにも激昂しすぐけんか腰になる。仕事ぶりもかなり雑になり、遅刻や欠勤なども目立ち始めた。
 最近になって、どうやら会社としても峰澤の勤務態度を看過できなくなったらしく、上司が直々に峰澤との話し合いの場を設け、事情を聴く予定を立てていた。

 話し合いの当日。長引くと思われた話し合いは、10分も経たずに会議室の扉が開いて終了した。

 その日の夜、サラリーマンがごった返す居酒屋の座敷で、私と峰澤は酒肴を挟んで座っていた。今日の話し合いの内容を問う私に、峰澤はそっけなく「辞めることにしたわ」と応じた。何となく予想はできていたが、それでも峰澤本人の口から直接出た言葉の衝撃は大きかった。会社が変われば、この無二の親友とこれから顔を合わせる頻度も減ってしまうだろう。私は、暗くなりそうな気持ちを抑えつつ、ずっと気になっていた疑問を峰澤にぶつけた。
「なあ、夏ごろ実家に帰った時、何かあったのか?」
そう。峰澤が豹変してしまったのは、あの休暇のときからなのだ。それなのに、あの休暇中峰澤の身に何が起きたのか知る者はいない。社内で一番仲の良い私ですらも。
 峰澤は少々考え込み、ややあって力なく笑った。
「ま、お前になら話してもいいか。どうせ、夢物語みたいで信じてくれないだろうがな」
こんな前置きの言葉を皮切りに、奇妙な話を語り始めたのだった。


作品名:ペルセポネの思惑 作家名:六色塔