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桜堤通り(掌編集~今月のイラスト~)

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「父がね、亡くなったのよ」
「あ……そうだったんですか、ご愁傷様です」
「ありがとう……もちろん悲しいには悲しいんだけど、私の再出発でもあるから……思い切って髪を切って気持ちを入れ替えようと思ったの、そうしたら山田君がこっちで美容師さんをしてるのを思い出して、山田君に切ってもらえたらいいなって……」
「ありがとうございます……で、どのようになさいますか?」
「思い切りショートにしてみたいんだけど、どうかしら?」
「ええ、お似合いになると思いますよ、明るい感じになると思います」
「そう?じゃお願いするわ、リクエストはそれだけ、後は山田君のセンスにお任せするわ」
「はい、責任重大ですね」
「うふふ、思い切って大変身させてね」

 
 カットケープをかけると、鏡の中の先生をまじまじと見る。
 同窓会の時のちょっと疲れた雰囲気はもう感じない……あの時の先生はそれはそれで魅力的だったが、今、僕の前に座っている先生は、どう変身できるのかという期待に瞳を輝かせている。

 十一年続いた介護……二十代半ばからの、普通なら恋愛、結婚、出産と大きく人生が動いていたはずの時期。
 介護がどんなものなのだったのかは良くは知らない、が、先生がまだ独身でいるのには少なからず影響していたはず、その年月を、今、先生は歩み直そうとしているのだ。

 これは先生の卒業式であり、入学式でもあるんだ……そんな思いを込めて肩にかかる髪に大きく鋏を入れると、あの時と同じ香りがふと香った……。

(終)