コードLP
ペイン
この世とは忘れることが当たり前のようだ。
当然のように平和をむさぼり、たらふくメシを食い散らかす。
飽食は飢餓の苦しみと引き換えに、人にエゴを覚えさせる。
戦争がこの世から愛を殺し、平和がこの世から恐怖を忘却させる。平和が永く持った試しは無い。武器商人のうすら笑いが聞こえてくる。
俺はペイン・カスタネット。
この国の軍隊に入隊してまだ間もない、新兵という奴だ。
俺の国は平和国家だった。だが魂胆だらけの政治家政党によって、国民は愛よりも名誉を選ぶようになった。
そう、すべては計画どうりに・・・
惑星が人間を見放してしまった。もう帰るべき愛は居ないのか?
暗く無情な時代が訪れた。俺の家族は今何処に居るのか。
俺達の大隊に、試作の新型兵器。
対有人戦闘用擬人が実戦配備された。
平たく言えば、殺人ロボットだ。こんな物を警察自警団は。
国家予算をつぎ込んで密かに開発していたのだ。
こいつの脳にあたる、CPUはオンラインで全軍のコンピュータと随時つながっている。
ミント軍曹「良いか、貴様ら」
「国家の威信をかけたこのプロジェクト」
「擬人部隊が師団規模で運用が実用化されれば」
「貴様ら人間の兵士など、無用の長物」
「無駄飯食らいの赤ん坊になる!」
「擬人は飯も食わない。燃料も要らない」
「戦場で恐れをなすこともない!」
「怪我も戦死もしない」
「完全に自立独立して、半永久的に戦闘することが可能なのだ!」
俺はまるで、死刑宣告を受けた気分になった。
ペイン「全ては悪魔の計算どうりか・・・」
ミント軍曹「いま無駄口を叩いたのは誰だっ?」
ペイン「ハッ!自分であります!ミント軍曹殿!」
ミント軍曹「また貴様か。平和かぶれの、カスタネット二等兵!」
「気合を入れてやる!歯を食いしばれえっ!!」
バキッ・・・
朝の教練が終わって、初めて俺達も擬人を目の当たりにした。
ペイン「う、うそ・・・」
兵士A「なんだあの娘は?どっかの民間人じゃないのか?」
兵士B「ちゲーよ!あれが人殺しの擬人だ。見た目に騙されんなよ?」
兵士たち「ざわざわざわっ・・・」
新品の女性兵士用軍服を着ているが、ただの少女にしか見えない。
緑色の軍服に赤いベレー帽。ショートカットの髪がキュートだな。
これが無慈悲無情の絶対無敵の殺戮兵器だというのか?
ピィッピィッピッ
擬人「はじめまして皆さん、ワタクシは対有人戦闘用擬人」
「コード・LP45Wです」
「短時間で呼称出来る様に、LPと呼んで下さい」
兵士A「か、可愛いっー!!」
LP「あなたがペイン・カスタネット二等兵ですね」
ペイン「あ、ああ」
LP「軍司令部のマザーコンピュータ・ヒメギミがあなたを選びました」
「只今をもちましてLP45Wは貴殿をサポート」
「生存のために全能力を駆使することを命令されました」
「随時、生活を同伴する事も出来ますが。判断は貴殿に委ねられています」
正直オッタマゲた。なんで俺なんかをマザコンは選んだのか?
何かの選考基準でもあるのかな。
今は最前線に出兵する前の朝飯の時間だ。
機甲師団の援護をするために随行しなければならない。
徒歩が鈍い歩兵は兵員輸送トラックでゆく。
兵員食堂で。
兵士C「これが最後のちゃんとした飯だぞ。たらふく食っとけよ」
ペイン「Pちゃんは食べないのかい?あ、ダイエット中だった?」
LP「Pちゃんとは、ワタクシの愛称ですか?」
ペイン「そーさPちゃん」
「軍曹が言うには無補給で働けるんだってね?」
LP「ワタクシは労働はしません。敵兵士を生命停止させるのが任務です」
ペイン「・・・・・」
ブォー・・・ガタガタガタガタ・・・
輸送トラックの中。皆緊張している。ゲロを吐いてる奴もいる。
兵士D「ねえLPちゃん。戦闘になったら軍服を脱ぐの?」
兵士たち「あっはっはっははははっ!!」
LP「この支給品の軍服は脱衣しません」
「戦闘時はワタクシのボディ表面に耐衝撃エネルギーフィールドが形成され」
「衣服はいっさいをコーティングされます」
「消失も疲弊もしません」
ペイン「Pちゃん、難しい言葉をよく知ってるねえ?」
ドドッカーン・バムバムッ!!
先頭で敵の攻撃にあったようだ。機甲部隊が左右に展開を始めた。
歩兵は皆トラックから下車して戦車の後方へ隠れる。
敵の大砲の砲弾と銃弾が無数に飛んできた。
もう誰も喋らなくなった。
戦闘指揮官のカインズ大尉が大声で怒鳴っている。
カインズ「ミント軍曹!擬人の実戦をやらせる!」
「いいな!?」
ミント軍曹「了解!LP45W!自律戦闘を開始せよ!」
ピッピッピッ・ブゥウウン・・・・
味方の戦車が前進しながら大砲を撃っているそのすぐ脇を。
LPは早足で、見たこともないレーザー兵器をブっぱなしている。
でも赤いベレー帽がよく似合う可愛い女の子にしか見えない。
LPが敵の機甲部隊、歩兵部隊を駆逐してゆく。
閃光が連発されて殆んど目を開けていられない。
ペイン「・・・・・」
敵軍の攻撃、銃弾や徹甲弾を身体に受けても微動だにしないLP。
まるで被弾が他の次元に転送されているみたいな錯覚を受ける。
ペイン「Pちゃん・・・」
俺は彼女が可哀想に見えてきた。
何であんなに可愛らしい女の子に造ったんだ。軍の技研の奴等は。
LP「!」
「敵国による戦術核ミサイルの使用を確認されました」
「2分後にこの都市全体が核爆発の被害を受けます」
「迎撃システムの運用は間に合いません」
「保護プログラムの発動を認証。生命保護機能を展開します」
ダダダダ・・・・
Pちゃんがレーザー兵器を放り投げた。猛スピードで(マッハか?)後方にいる俺めがけてぶつかってくる。
ペイン「うわ、Pちゃん!」
LPは俺だけを抱きかかえて、どこかへ猛然と走り出した。
ピッピッピッ
LP「最短距離に所在する大型地下シェルターを検索しました」
「認証コード取得。遠隔ロック解除、扉開きます」
ピカッ・・・ゴウワッ・・・・・ズズズーン!!!
戦術核ミサイルの核爆発だ。敵も味方も多分皆死んだのだろう。
ペイン「俺だけシェルターに入って助かったのか」
「Pちゃん・・・」
俺はまだPちゃんに抱きしめられている。
Pちゃんが泣いている?
まさか・・・
ペイン「Pちゃん、Pちゃんには心があるのかい?」
場違いな質問だと思った。こんなことを聞くなんてと・・・
Pちゃんの頬をひとしずくの涙が流れた。
LP「涙?擬人の設計思想に涙の観念は含まれては・・・」
「?」
Pちゃんの瞳から大粒の涙が溢れ出した。
LP「これは排気冷却水なの?」「ワタクシは・・・」
ペイン「Pちゃんの心が泣いているんだよ」
LP「泣いているの?ワタクシが・・・」
ペイン「Pちゃん、背骨が折れそうだよ」
LP「あ、ご、ごめんなさい。痛かった?」
ペイン「ああ、いま気がついたよ」
「君の名前」
LP「ワタクシの名前?」