「サスペンス劇場 大空に蘇る」 最終話
「国籍と機体認識番号及び搭乗員の氏名を知らせよ」
何を言っているんだと望月は思ったが、自分たちが過去へ行ったために歴史が変わっていたのかも知れないと考えた。
「望月です。国籍は日本です。詳しいことは着陸してお話します」
「許可する。誘導する必要はあるか?」
「大丈夫です」
わずかな向かい風の中ゼロ戦は無事着陸した。
この時代に空からゼロ戦が飛んできて、着陸したのだから大騒ぎとなっていた。
望月は管制官の指示通りに空港の一室へ入り、取り調べを受けた。
その後ロビーへ出てきたところをマスコミとテレビ局が取り囲む。
このテレビ中継を見ていた人物がいた。
あの日望月と別れた中島だった。
彼は介護施設に入居していたが、ボケてはいなかったのであの日の記憶が一瞬にして蘇ってきた。施設のヘルパーに事情を話して空港へ電話を掛けてもらって、望月と連絡が取れるようにして欲しいと頼んだ。
半ば信じがたい話をしたので聞いていただけにしていたヘルパーも、中島の表情を見てとりあえず電話だけしてみようと空港を検索して番号を見つけて掛けた。
1時間ほど経ってから一本の電話が施設に掛かって来た。
それは望月からだった。電話口に中島が出る。
「望月です・・・中島さんですか?」
「望月さん・・・中島です」
もう言葉にならない。
72年の歳月は二人の年齢を逆転させていた。
「中島さん、お元気で何よりです。私は目的を果たせなかった。あの雲がまた現れたんです」
「そうだったのですね。私はあなたが敵に突っ込んで目的を遂げられたのだろうと思っていました。こんな形であの世ではなく再会が出来て何とも言えない気持ちです。もう私は次の誕生日で95歳になります。ここまで元気で生きてこられたことも神へ感謝です」
「そうでしたか。こちらが落ちついたら会いに行きます。その時にゆっくりとお話ししましょう」
望月と中島は再会し、中島には長い長い72年の月日が、望月にはわずか数か月の時ではあったが、お互いに昨日のことのようにいつまでも語り合っていた。
作品名:「サスペンス劇場 大空に蘇る」 最終話 作家名:てっしゅう