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キツネ顔の女

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 「二人とも若かった。相手のことが分からんかったし、思いやる余裕もなかった」
  交差点をカーブで回りながら、男が呟いた。
 「・・分からんというより、男と女は根本が違うんや」
 「・・・」
 「女はいつまでも愛されたい。けど、男は色んな女を愛したい。男と女は深い溝があるんや」
 ケンのある声が返ってきた。
 「・・いっぱい泣かせたんでしょ」
 「・・・」
 うち解けて和(なご)やかだった二人に亀裂が入った。重たい沈黙が流れた。駅が見えてきたとき、突然甲高い声を上げた。
 「ここ!ここで降ろして、子供を預けてるの」
 慌てて駅前商店街の入り口でトラックを停めると、女はサッサと降りてよそよそしく頭を下げた。
 「お世話になりました。ありがとうございました」
 それだけいうと、振り返りもせず薄暗いシャッター通りに消えて行った。二人で昇りつめた一体感はどこへやら、女は強ばり青ざめたキツネ顔に戻っていた。後味の悪い別れであった。なぜ、優しく愛くるしい女が豹変したのか?
 「男と女は深い溝があるんや」、何気ない一言であった。
 このまま別れるのは忍びない。名前も連絡先も聞いていない。細面で淋しそうな女の隠された色気、妖しさに執着があった。もう一度会っておきたい。駅前ロータリーにトラックを停めると出てくるのを待った。
 半時間ほど待っただろうか。
 子供の手を引いた黒コートの女が出てきた。小走りに男の子がついて行く。急いでいるのか、トラックに気づかない。クラクッションを鳴らすと飛び降りた。アッ!口に手を当て立ち止まった。男の子が弾んだ声で叫んだ。
 「ワーイ!パパだ、パパが来てくれた!」
 唖然とし、母親の表情でたしなめた。
 「パパじゃないの、パパは会いたくないの」
 「じゃ、この小父ちゃん、だれ?」
 キョトンと見つめる子供、男はしゃがんで手を握った。
 「ママのお友達だよ、大坂まで一緒に帰ろうか」
 子供の言葉がシングルマザーの急所を突いた。この子はパパに会えるのを楽しみにしていた。それを女の気持ちが変わって会えないようにした。子供はパパを欲しがっている。男親を求めている。どうしよう?どうしたらいいの?女の母性が激しく揺れた。
 そのとき、駅舎から特急の到着を伝えるアナウンスが流れた。
 「ゴ、ゴメンナサイ。特急のキップを買ってます。この列車で帰ります」
 未練を吹っ切るように、子供を抱えると改札口に走った。大阪行きの特急がホームに入ってきた。最後尾の女が乗り込もうとしたときである。
 オーイ!土産袋を振りながら、男が走ってきた。駅員は発車の合図を遅らせた。ドアのところで息を切らしながら、「ゴメン!」土産袋を差し出した。
 「こ、困ります」動転している女は断ったが、ワーイ!男の子が喜んで受け取った。
 「ここに、ここに連絡してくれ!」
 会社の名刺を差し出すと女に握らせた。ドアが締まり列車が動き出した。男の子が手を振った。
 「小父ちゃん、バイバ~イ、パパの代わりに遊んでね」
 子供を抱いた女はオロオロ泣きながら何度も何度も頭を下げていた。
                                        完


作品名:キツネ顔の女 作家名:カンノ