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翼をください

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1 小説版


(なんなりと望みを申すが良い、必ず叶えてつかわそう……)
(あなたは?……)
(ワシか? ワシは神様じゃよ)
(自分で『様』って……)
(いや、お前たち人間はそう呼ぶじゃろ?)
(英語だとGODで呼び捨てだと思うんですけど)
(呼び捨てとは違うぞ、Dr.とかPrf.と同じでそれ自体尊称なんじゃ)
(あ、そうか……だったら日本人がおかしいんですね、尊称を重ねちゃうんだから……じゃぁ、神)
(う~ん、日本語でそう呼ばれるとなんとなく違和感を感じるが……そうそう、望みを一つだけ言え、なんなりと叶えてつかわすぞ)
(そんなこと急に言われても……)
(あのな、ワシも忙しい体なんじゃよ、さっさと決めてくれんか)
(えっと……じゃあ……翼をください、大空に翼を広げて飛んで行きたいんです、悲しみのない自由な空へ)
(なんだか聞いた様な台詞じゃな……わかった、望み通りお前に翼を授けよう……)

▽    ▽    ▽    ▽    ▽    ▽    ▽    ▽

 つい1時間ほど前の事だ。
 ごく普通の高校生、大川俊彦は子供が道路に飛び出す場面に遭遇した、急ブレーキのけたたましい音、トラックが子供に迫っていたのだ。
 考える間もなく俊彦は道路に飛び出し、子供を懐に抱えて転がった。
 そして、トラックとの接触かろうじて避けられたものの俊彦はアスファルトに頭を打ち付けて気を失ってしまったのだ。

「俊彦は、俊彦は大丈夫なんですか!?」
 報せを受けて病院に駆けつけた母親が息を弾ませながら医師にとりすがる。
「落ち着いて下さい、ご心配には及びません、検査の結果異常は認められませんでした、外傷はありますが傷跡が残るようなこともないでしょう」
「ああ……良かった……俊彦に会えますか?」
「ええ、もちろんです……わぁっ!」
「え? 俊彦に何か? ああああっ!」
「ああ、母さん、どうしたの? そんなに驚いて……わぁっ! 何だ! これは!!」

 俊彦の肩から先、腕があるべき部分は白い大きな翼に変わっていた……。

∧( ‘Θ’ )∧  ∧( ‘Θ’ )∧ ∧( ‘Θ’ )∧ ∧( ‘Θ’ )∧

(神様! 神様!)
 その晩、俊彦は必死に神に呼びかけた、指を組めないのがもどかしいが……すると……。
(そうじゃ、素直にそう呼んでくれれば良いんじゃよ……ワシの贈り物は気に入ったかの?)
(冗談じゃない、僕の腕はどこに行ったんですか!)
(翼に変えたんじゃよ……それが何か?)
(それが何か? じゃないですよ、腕がないと暮らしていけないじゃないですか)
(鳥にはみんな腕はないが?……)
(な……僕は人間ですよ、これから先、鳥として生きて行けとでも?)
(そう言う望みじゃなかったのか? 悲しみのない自由な空へ飛んで行きたいとかなんとか)
(いや、僕のイメージとしてはですね、腕はこれまでどおりちゃんとあって、それとは別に背中に羽が生えていて飛べると言う……)
(ああ、それは無理じゃな、翼をはためかせて飛ぶには少なくとも厚み50センチの大胸筋が必要じゃからな、背中に羽がついていても飛べるわけがなかろう?)
(だ、だけど天使は飛んでるじゃないですか)
(あれは羽ばたいて飛んでるわけではないんじゃよ、天使もワシと同じで実体があるような無いようなものじゃからな……)
(じゃあ、翼なんていらないじゃないですか)
(そうじゃな、まあ飾りみたいなもんじゃよ、翼があった方が天使らしいじゃろ? 神との区別も付けやすいしのぉ)
(そんなぁ……お願いしますよぅ、元に戻して下さい)
(いやぁ……もう望みを一つ叶えてしもうたからなぁ……)
(お願いですよ、望みは取り下げますから)
(それを聞き入れるとなると願いを二つ叶えることになるなぁ……ワシは構わんが、神仲間には結構口うるさいのもおるんじゃよ、過剰な褒賞を与えたとか何とか……まあ、諦めてくれ)
(そんな! 困りますよ! あ、神様が消える……待って! 逃げるな~! おい、こら、神! 腕ドロボ~!)
(人聞きの悪い……まあ、そのうち慣れるじゃろうて)
(わあ~っ! そんな~っ! 消えるな~!)

 と言うわけで、その日から大川俊彦は鳥人間として暮らして行くことになった。

∧( ‘Θ’ )∧  ∧( ‘Θ’ )∧ ∧( ‘Θ’ )∧ ∧( ‘Θ’ )∧

 腕が、と言うよりも手がないと生活上困る事は沢山ある。
 鳥と同じ翼にも人間の肘、手首に当る関節はある、指の骨だって三本はあるのだ、しかし人間の親指に当る指は手首の根元に、そして後の二本とはかなり離れている、しかも指そのものには関節がない、つまり、物を掴むという動作はほぼ絶望的なのだ。
 食事は何とかなる、親指の骨にスプーンをくくりつけてもらえば、かろうじて食べ物を口元に持って行く事は出来る、飲み物は挟むようにしてコップを持って……しかし、翼は腕だった時のおおむね二倍の長さ、口元に持って行くにはかなり苦労する、同時に口からも迎えにいってなんとかなると言うところ、とてもじゃないが熱い飲み物など恐ろしくて手が出せない。
 それ以上に厄介なのが文字だ、手首だってそんなに微妙な動きは出来ないからB5のノートに六文字書くのがやっと、しかも羽は水を弾くようにつるつるしているからページをめくることもできない、つまりは筆談もままならない。
 スマホやPCの操作も絶望的、そもそも画面タッチでは反応してくれないし、柔らかい羽の先ではキーボードを叩けない……音声で操作する方法がないわけではないが、それで出来ることには限りがある。
 着替えも困難を極める、翼が通る袖の洋服などあるはずもない、和服だって通らないのだから……幸い羽毛に覆われた翼は寒さを感じないが、俊彦は両脇をファスナーで止める特注品しか着ることができない、しかもファスナーの開け閉めは自分では出来ないのだ。
 それと……食事中の方には申し訳ないが、トイレも一苦労だ。
 まずファスナーの開け閉めは出来ない、それは腰ゴムのズボンで何とか対応するとして……拭けない……ウォシュレットのありがたさが身に沁みる、もしなかったら、と思うと恐ろしさに身震いするレベルだ。
 結局入院は一ヶ月に及んだ。
 脳震盪と外傷そのものは大した事はなく、一週間もすれば退院できたのだが、鳥人間として生活できるように慣れるのに時間がかかったのだ。
 
∧( ‘Θ’ )∧  ∧( ‘Θ’ )∧ ∧( ‘Θ’ )∧ ∧( ‘Θ’ )∧

「うおっ! 大川、お前鳥人間になったって本当だったんだな!」
「翼を良く見せてくれよ……へぇ、立派なもんだな」
「羽、一枚貰っても良いか? 羽ペンにするんだ」
 まるで見世物扱いだ。
 それだけじゃない、学校と言う集団生活の場では病院では問題にならなかったことも色々と出て来た。
 
「先生! 大川君の肘が邪魔です」
「先生! 大川君の翼が邪魔になって黒板が見えません」
 それもそのはず、俊彦の翼は広げると四メートル、翼にも肘と手首に当る関節はあるので折りたたむ事は出来るが、動かせる状態では最低でも二メートル、それ以下にしたいと思ったら完全にたたんで背中に背負うしかない。
作品名:翼をください 作家名:ST