密味先生
私の告白に先生は「卒業まで待ちなさい」なんて言ってたけど、ねぇ先生? 私、もうすぐ卒業なの。
先生! 卒業してからじゃ何の意味もないのよ。ねぇ先生? 私が制服を着ているうちに。私が‘女子高生’というお金じゃ買えないブランドを身に付けているうちに――そういううちに私を包んでくれなくちゃ。卒業してからじゃ、なんの、なんの、なんの意味もないの。ねぇ先生? 分かってるんだよね? 先生?
この箱から外に出たら、先生より良い男はいっぱいいるよ? 先生なんて忘れちゃうよ? この女子高生の私を手に入れられるのは今だけなんだよ? ‘高校教師と元教え子’なんて何の面白みもないんだからね?
*****
「ねぇ、先生ってば!」
「もうすぐ卒業だろう。待ちなさい」
「イヤ。だって意味がなくなっちゃうもん」
「元教え子じゃ何の意味もない……か?」
「え?」
「お前みたいな生徒が毎年何人いると思う? お前が卒業したら、俺はお前に取って価値のない男だ。それと同時にお前が生徒であるうちは、お前は俺にとって‘毎年必ず現れる’月並みな女子高生だよ」
そんな風に言われた私は、ぱっきゃらぁんとなっちゃった。頭がぱっきゃらぁんって。
自分は特別なんかじゃなくて、フツーで月並みなタダの女子高生。それももうすぐ卒業の。
あーあ、なんだか急にどうでもよくなっちゃったな。早く卒業したいよ。そんで早く大人になりたい。
かじかむ手で制服のリボンを結び直してから私は、溜息と共に白い息をすぅーっと吐いた。
――了――