リードオフ・ガール 2
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夏休み明けの9月、光弘は再びサンダースの練習を指導する日々を送っている。
6年生は夏の大会をもってサンダースから引退、今は5年生と4年生だけだ。
5年生は10人いるのだが、既に中学受験を決めている子が3人いる、つまり4年生からもレギュラーに2人抜擢することになる。
夏の県大会のチームはどちらかと言うと守りのチームだったが、新チームは攻撃型になりそうだ。
光弘の指導方針は子供たちの個性を生かそうとするもの、放置すると後々苦労しそうな悪い癖だけ矯正して、個性はどんどん伸ばしたほうが良い、型にはめるのはその子のためにならないと考えている。
チームもまた然りだ、夏までのチームには技巧派のピッチャーがいて、それを最大限に生かせる守備の上手な子が多くいたので守備型のチームとなったが、新チームには絶対的なエースは見当たらず、その代わりバッティングが良い子が多い、攻撃型になるのが自然だ、型にはめたチームを作ろうとは思わないのだ。
秋季大会をどういうメンバーで戦うか、光弘の頭の中はその事で一杯、そして考えは概ね固まってきている。
まず、1番・センターは前年度に引き続き由紀だ、弱肩の方もフォームを矯正してやることでだいぶ改善された、もっとも肩が弱いのは生来のもので、弱いからこそボールを右肩に担いで押し出すようなフォームで投げていたのだ、腕を大きく振るフォームに直せば肩を痛めてしまう可能性もあるのでおいそれとは直せない、それでも身体が早く開いてしまう癖を矯正しただけでだいぶ違って来たのだ、それにボールを担ぐフォームは送球動作が素早くできる利点がある、由紀の今後のためにもそこは無理に直さなかったのだ。
バッティングの方は叩きつけて高いバウンドのゴロを打つ練習を繰り返している、そうする事で内野は浅く守り難くなる、セーフティバントの成功率も更に上がるはずだ。
2番には英樹が当確だ、守備力は元々高いし、由紀に次ぐ俊足の持ち主でもある、課題のバッティングでは徹底した右打ちを心がけるように言ってあるし、本人も真面目に取り組んでいる。
ランナーが由紀ならば犠牲バントの必要はない、一、ニ塁間に転がせれば由紀は確実に進塁するからだが、英樹自身、右打ちを心がけることでボールをしっかり手元まで見られるようになり、バッティングそのものがぐっと向上して来ている、由紀を一塁に置いてライト前ヒットが出れば俊足のランナーが一、三塁を埋めてクリーンアップを迎えることになる、相手ピッチャーにとっては悪夢だ。
3番は県大会でライトを守った達也、4番は同じくレフトを守った幸彦、そして5番には代打で出場した慎司、クリーンアップはこの3人で決まりだと思う。
達也と幸彦はどちらもジャストミートを旨とする中距離ヒッターだが、確実性では達也、長打力では幸彦に一日の長があるのだ、達也は左打ちなので内野安打が多いという利点もある、そして慎司は天性の長距離ヒッター、確実性にはやや難があるが試合を決める一発は魅力だ、勝負強さも申し分ない。
ただし、守備位置は大きく考え直さなくてはならない、由紀、幸彦、達也に加えて英樹、慎司と外野手が5人もいるのだ。
その中で由紀と英樹は外野の守備が抜群だから動かしたくはない、すると外野で空いているのはレフトだけと言うことになる。
幸彦、達也、慎司の3人をレフト、サード、ファーストで試しているのだが、その中で達也のサードはかなり良い、反応が速く送球も安定している、サードに慣れてグラブ捌きがもう少し上達してくれば屈指のサードになりうると思う、残るは慎司と幸彦だが、おそらく幸彦をファーストに回すことになるだろう、幸彦は外野手としては足が遅く、慎司は打球への反応速度がイマイチなのだ。
6番・ショートには4年生の宮田和也を起用するつもりだ。
とにかく守備力には天性のものがあるし、バッティングも去年の達也を見ているよう、同じ左打ちでもあるので余計そう見える、ファイトが前面に出てくる性格も良い、まだ少し早いが来年のリーダーとしても期待している。
7番・セカンドにも4年生の水谷新一、小柄だが小学4年生にして中々の職人芸を見せる、まるでゴロが自分から新一のグラブに吸い込まれて行くかのような……難しい体勢からのアクロバティックな送球は教えていないのだが、新一はそれを生まれながらにして知っているかのようだ、4年生同士で和也との息がピッタリなのも好ましい。
8番・キャッチャーは5年生の大谷明男、少し線が細くて非力な面はあるのだが、敦にへばりつくようにしてテクニックを学び、リードを教わって来た成果が出ている、バッティング面ではあまり期待できないが守りの要には必要な選手だ。
問題はピッチャーだ。
5年生のエース候補、五十嵐良輝……110キロを超える速球を投げ込む本格派、小学生としては相当に速い。
しかし、問題もある。
スタミナ不足とムラっ気だ。
身長こそ高いがかなり細身、その身体を大きく使って球速を生み出すのだが、3~40球も投げるとスピードが落ち始める。
まだ肩のスタミナが充分育っていない上に、爆発的な力を瞬間的に出すので消耗も激しいのだろう、ランニングをたっぷりするように言いつけてあるが、どうも好きではないらしくあまり身を入れて走ろうとはしない、そこは口をすっぱくして言っているのだが、どのみち秋季大会で成果が出ると言うようなものでもない、とりあえずエースは良輝で決まりとしても、良輝一人で投げ切れるとは思えない。
ムラっ気も良輝の欠点、相手の中軸を迎えた時、ピンチを背負った時は気迫の投球を見せるが、ランナーなしで下位打線と言ったような場面では気が緩む悪い癖がある、不用意なボールでヒットを浴びたり無用なフォアボールを出してピンチを招くことが度々あるのだ、ピンチを背負えば気合が入ってピシャリと抑えるのだが、大会レベルが高くなればそれでは済まなくなることも充分考えられる。
ボールも性格も良輝はクローザー向きである事は明らか、そうすると先発ピッチャーがもう一人必要、4年生のエース候補、小坂勝がその一番手になるのだろうが、彼はボールこそ速いがコントロールに難があってまだ使えそうにない。
d (>◇< ) アウト! _( -“-)_セーフ! (;-_-)v o(^-^ ) ヨヨイノヨイ!!
さて、どうしたものかと考えながら投球練習場へ足を運ぶと一人のピッチャーが目に止まった。
石川雅美、4年生の女の子だ。
4年生としては大柄な部類で、本人がピッチャーを希望するのでやらせているが、正直あまり期待してはいない、球速は80キロ程度と平凡だし、ストライクを取るコントロールは持っているが、コーナーをきっちり狙えるほどのものではない、そして練習態度もどこかちゃらんぽらんなところがあるのだ。
今日もキャッチャーと談笑しながら投げていた。
「今の、どうだった?」
「ああ、揺れたよ、少しだけど」
「よ~し、今度こそ捕れないくらい揺れるの投げるね」
(揺れる?)
光弘はその一言を耳に留めた。
作品名:リードオフ・ガール 2 作家名:ST