⑩残念王子と闇のマル
「いじめたくなる♡」
言うなり、カレンは麻流を大きく深く貫いた。
高い嬌声を上げて涙を流す麻流の反応をじっくり確かめながら、カレン自身もだんだんと余裕がなくなっていく。
でも言葉や表情とは裏腹に、前の時のようにただ想いをぶつけてくるのではなく、麻流を気遣いながら、二人でじょじょに溶け合っていくように愛を交わした。
お互いを激しく求め合いながら、乱れた呼吸も体も完全にひとつに溶け合う。
押し寄せる快楽がついに高みまでのぼりつめ、お互いの魂までもひとつになろうとした。
「マル…」
「カレン…っ」
お互いの名前を同時に呼び合った瞬間、カレンの情熱は大きく弾け、麻流はそれを離すまいと締め付ける。
「…っは…」
カレンは詰めた息を吐き出すと同時に、自分を深く受け入れている麻流を掻き抱いた。
「カレン…。」
呼ばれたカレンは、浅い呼吸を繰り返しながら、乱れた長い前髪の間から麻流を見つめる。
「…ん?」
吐息混じりに応えると、麻流が甘えるようにカレンを抱きしめた。
「もう少し…このままで…」
先程まで最奥で繋がっていたカレンが、だんだんと離れていっていることが寂しくて、麻流は離れまいとその腰に脚を絡めしがみつく。
「ダメだよ。」
小さく笑いながら、カレンは麻流から体を離した。
「ゃっ…ぁん!」
ずるりと離れた感覚に、思わず麻流は嬌声をあげる。
「ふふっ、か~わいい♡」
言いながら、汗ばんだ麻流の額に口づけた。
「…なんで、離れるんですか…。」
拗ねた表情で顔を背けた麻流の顔を覗きこむように、カレンはベッドへ頬杖をついて横たわる。
「外れちゃうから♡」
カレンはそう言うと、外れたものを麻流に掲げて見せた。
それを見た瞬間、麻流は首まで真っ赤になり再び反対を向く。
「中で外れちゃうと、大変でしょ?」
そんな麻流を背中から抱きしめながら、カレンは真顔になった。
「もう、焦らないって決めたんだ。」
低く真剣な声色に、麻流はふり返る。
「以前のおまえは、なんだかいつまでもつかみどころがなかったから。…不意にいなくなってしまうんじゃないか、って…いつも不安だった。」
初めて聞くカレンの本心に、麻流は息をのんだ。
「おまえをつなぎとめるために、一日でも早く家族になりたかった。」
カレンは眉を下げて、自嘲的な笑みを浮かべる。
「そんな僕の焦りのせいで、おまえをたくさん傷付けたし…結局、一番大事なときに守ってやれなかった。」
汗で貼り付いた麻流の前髪を、カレンは丁寧に整えてやりながら真っ直ぐに麻流を見つめた。
「僕の思いばかりをぶつけたせいだと、反省したんだ。」
黒い大きな宝石のような瞳に見つめられ、カレンは優雅に微笑む。
その表情は、別れる前のカレンより大人びていて、威厳も感じられ、麻流は心を奪われた。
「もう二度とおまえを苦しめることがないよう、何が起きても僕が守りきれるよう、これからはもっと物事を見極め、おまえが幸せになれる最善の道を選べるよう心を通わせていこう、って思ってる。」
カレンは麻流の頬に手を添えると、大人びた表情でやわらかに見つめる。
「国も、民も、おまえも、僕が必ず守ってみせる。」
何も身に付けていないはずなのに、麻流の瞳には、カレンが王冠をつけ、エメラルドのマントを羽織り、玉座に座っているように見えた。
麻流はゆっくりと頷くと、瞳を半月にする。
「はい。私も、これからはきちんとあなたに素直に向き合っていきます。…そして、この持てる力全て使って、あなたをお支え致します。」
カレンはエメラルドグリーンの瞳を細めると、大輪の花が咲くように華やかに笑った。
「どんな魔法や宝玉よりも素晴らしい、金不換の…世界一の宝物だよ。」
そして、ゆっくりと麻流に顔を近づける。
誓い合うように口づけながら、二人は再びひとつに重なりあった。
作品名:⑩残念王子と闇のマル 作家名:しずか