⑩残念王子と闇のマル
「この件については、私が父上に提案した。星一族の使役動物と、カレン王子の愛馬の間に仔が産まれたことがきっかけなんだけど、姉上もおとぎの国へ嫁ぐことから思いついたんだ。」
そして一呼吸おいて、理巧は再び皆をぐるりと見回す。
「今回、姉上とカレン王子の婚約で、互いの国が非常に危うい事態となった。我が国は星一族がいた為に相手方も気安く攻撃してこなかったけれど、おとぎの国は本当に危なかった。けど、それは今までの星一族の所業のせいだと、私は思ってる…。」
チラリとうかがうような視線を送る理巧に、空は穏やかな笑みを返した。
「今までの星一族は、依頼があれば調略でも謀略でも…おまえたちに『外道』と陰口を叩かれるようなことでも、何でもしてきた。」
ストレートな理巧の言葉に、その場にいた重臣たちは視線をさ迷わせる。
「それは長い歴史の中で、もともとそれを生業として来た民だったから仕方ないんだけど、花の都に併合され、その中から王族の血をひく頭領が出て、それが後に王配として国を統べる立場になったとしても、急な改革はやはりできなかった。」
皆は、一斉に空を見た。
「今まではそんな星一族の悪名が逆に国の防衛となっていたけど、今回はそれが仇なしたよね。」
理巧はその切れ長の黒水晶の瞳を鋭く細めると、大きく深呼吸する。
そして、敢然と宣言した。
「だから、私が頭領になった今からの星一族は、今後一切、外部の依頼は請けない。」
理巧の言葉に、広間がどよめく。
「これからの星一族は」
そのどよめきを切り裂くように、理巧が声を張り上げると、瞬時に再びシンと静まり返った。
理巧はそんな重臣たちを数秒みつめた後、ゆっくりと麻流に視線を流す。
「…これからの星一族は、私、理巧が花の都頭領、麻流がおとぎの国頭領となり、それぞれの国の防衛にあたる。」
「…。」
キョトンとするカレンと顔を見合せた麻流は、理巧をもう一度見つめ、ようやくその意味を理解した。
「はぁ！？」
(つづく)
※次回で最終回です
作品名：⑩残念王子と闇のマル 作家名：しずか