吹雪だ! ライダー!
その晩、ペンションは子供達の賑やかな声で満たされ、窓から漏れる温かい灯りがゲレンデを照らしていた。
第一回スポーツ缶けり東京都大会優勝の副賞として授与されたスキー旅行、メンバー達は大活躍だった志のぶにその権利を贈呈し、それに足し前して施設の子供達を招待したいと漏らした志のぶの言葉を聞きつけた商工会議所の会頭が後援してくれて、施設の子供達をまるごと一泊スキー旅行に招待できたのだ。
昼間は子供達にたっぷりとスキーを教えてやったのだが、夜になっても子供達は元気いっぱい、普段は質素な施設で暮らしているだけにしゃれたペンションでのひとときが楽しくて仕方がない様子。
赤々と燃える暖炉を囲も子供たちの笑い声はまだまだ絶えそうになく、ライダーチームの面々も楽しく心温まるひとときを過ごしていたのだが……。
「何か聞こえる……」
ふと、志のぶの顔が曇った。
「何かって……あまり歓迎したいものではなさそうだな」
志のぶの様子から、剛も少し険しい顔になる。
「あたしも……『気』を感じます」
晴子の顔も曇った。
「それは同じものかな?……」
「聞こえているのは大きな動物の足音……」
「感じているのは妖気……多分足音の主じゃないと思う」
ライダーマンこと結城丈二が冷静に状況を判断する。
「どうやら厄介なことになっているようだ……志のぶさん、席を外して変身して来てくれないか、戦うことになれば我々も変身しなきゃならないがそれを子供達に見せたくない」
「そうね……そうするわ……」
志のぶがそっと席を外すと、足音は誰にでも聞こえる位に大きくなって来た、静まり返ったダイニング、コップの水に小さな波紋が生じる……かなり大きなもののようだ、そして波紋は徐々に大きくなり、それがこちらに向かっていることもはっきりする。
子供達に動揺が広がり始める、しかし、そこへ突然のレディ9の出現。
「みんな、大丈夫よ、心配しないで、きっと守ってあげるから」
かっこ良くて頼りになるヒロインの登場に歓声が湧き上がる、その瞬間を捉えて、隼人、丈二、剛はペンションの外へと飛び出した。
「敵かどうかはまだわからないが……」
「ああ、しかし、晴子ちゃんが言ってたことも気になる、さっきまでは満天の星空だったのに……」
「ああ、いつの間にかこの猛吹雪だ、いくら山の天気が変わり易いと言ってもこいつはおかしいぜ」
「まずは変身だな……ライダ~、変っ身っ!」
「ライダーマンマスク、オン!」
「マッスルマスク、装着!」
変身した三人の目には、吹雪の彼方から山を降りてくる『それ』の姿をはっきりと捉えることが出来る。
「ありゃぁ、マンモスか?」
「普通マンモスは二足歩行しないものだが」
「決まりだな、ありゃショッカーの怪人、マンモス男って訳だ、かんじきを履いた戦闘員どもが両脇を固めてるんだから間違えようも無いな」
「それにしてもあの全身タイツ姿では寒そうだな」
「と言う事は、最後尾から降りて来る、自分だけマントの下にダウンコートを着込んでるのは死神博士だな……」
「あの野郎……」
死神博士は薄情で自分勝手、元ショッカーのエリート戦闘員だったマッスルはそれをイヤと言うほど知っている、そして、モグラ男と化した後輩の体に自爆装置を埋め込んで爆死させたことを、マッスルは決して赦すつもりはない。
そのマッスルの様子を覗って、ライダーマンは釘を刺しておく事を忘れない。
「マッスル、君の気持はわかるが、今は子供達の安全が第一だ」
「ああ、わかってるって、ペンションの中には子供たちだけじゃない、志のぶも晴子ちゃんもいるんだ、あのでかい化け物を近づけさせやしねぇよ」
「よし、迎え撃つぞ!」
ライダーが先頭になって走り始め、ライダーマンとマッスルも続く……が、猛吹雪で急激に積もった新雪に足をとられて思うように走れない、そして、見る見るうちに腰まで雪に埋まってしまった。
「これでは思うように戦えないぞ!」
キックが主な攻撃手段であるライダーは足元が悪いと攻撃力が半減してしまう。
「しまった、こちらも雪対策をして来るべきだった」
いつもは準備万端のライダーマンも歯噛みする。
しかし、マッスルに動じた様子はない。
「かんじきで良ければあるじゃないか」
「どこに?」
「現地調達ってやつだよ」
マッスルはメリケンサックを拳に装着すると、腰まで雪に埋もれたまま、駆け寄って来る戦闘員の向こう脛、いわゆる弁慶の泣き所にパンチを叩き込んだ。
「ぎゃあああ!」
「ほら、一足ゲットしたぜ、ちょっと待っててくれ、君らの分もすぐに調達するから」
かんじきを装着して足場が定まったマッスルは瞬く間に二人の戦闘員を倒して二足のかんじきを調達した。
「助かった、マッスル」
「臨機応変ってやつだな、君はきっと無人島でも立派に生きていけるよ」
「まあな、逆境には慣れているよ、だがここからが本番だぜ」
「ああ、それにしてもでかいな……」
間近に迫ったマンモス男、身長は8メートルほどもあろうか、そしてそのサイズから推定される体重はおよそ20トン、こんなのが歩けば地面も揺れるはずだ。
「おいおい、でかいからって怯んでいられるのかい?」
「しかし、マッスル、かんじきを履いていてもジャンプ力を充分には発揮できない」
「そんなときはプロレス名物ツープラトン攻撃じゃねぇのか?」
「なるほど! アシストしてくれるか?」
「任せとけって!」
「ライダー、マッスル、君たちの力を疑うわけじゃないが、こいつは簡単に倒せる相手じゃなさそうだ、私に対策を練る時間をくれ」
「ああ、いいとも、どのみちこいつをペンションに近づけるわけにはいかねぇんだからな、ライダーと俺で足止めしておく、対策の方は任せたぜ」
「わかった、頼む!」
「おうよ! ライダー、俺のアシストで跳んでくれ」
「行くぞ! マッスル! とぉっ! ライダ~~~ キィック!!」
マッスルが中腰になって手を組み、それを足場にライダーが跳ぶと同時にマッスルもライダーを宙高く跳ね上げる、ツープラトンによるライダーキックだ。
それが眉間に命中すると、流石のマンモス男もふらついて前進を止めた、しかし、倒れる事なくまた前進を開始する。
「くそっ、効かないか」
「いや、効いてるぞ、ライダー、一瞬だが脳震盪を起こしたみたいだ、脳みそが揺れればこの巨体でも痺れるんだ、もう一丁行こうぜ!」
「おう! ライダ~~ コークスクリューキック!」
ライダーはひねりを加えたキックをマンモス男のこめかみに決める、マンモス男は膝をつきかけるが、今度もまた持ちこたえた。
「もう一丁頼む! マッスル」
「おう! だが気をつけろよ、奴もスピードに慣れてくるからな!」
「ライダー~~ キィッ……ぐはっ!」
「ライダー! 大丈夫か!?」
マッスルの忠告どおり、ライダーキックのスピードに慣れたのか、マンモス男はブンと鼻を振り、ライダーを弾き飛ばしたのだ。
「だ、大丈夫だ、新雪がクッションになってくれたようだ」
「次の手を考えないとな」
「ああ……どうする?」
「ライダー……あれだ、あれを使おう」
「なるほど!」
作品名:吹雪だ! ライダー! 作家名:ST