「サスペンス物語 京都の恋」 最終話
もう自分は長くないかも知れないという恐怖心が出た。
不治の病のようにガンは言われている。医師も最善を尽くすとしか言わなかった。
入院を前に電話の前に座って受話器をとろうかどうか迷う時間が過ぎてゆく。
朝になる。やはり掛けることが出来なかった。
暫くして尚樹は電話を掛けた。
前と同じように何度掛けても、どんな時間に掛けても、繋がることは無かった。
冬休みに入ってすぐに東京へ行く決心をした。嫌な予感がしていたのだ。病気のことを聞いていなかったら待っていただろう。
美代子のアパートまで来て留守を確認した尚樹は、大家さんから入院のことを聞かされ、病院へ向かった。
ナースセンターで面会謝絶だと聞かされて、帰るしかないと思っていたが、美代子に身寄りがないことを知っている担当看護師は少し待つように言って、病室へ入っていった。
「尚樹さん、ご本人はおそらくお話が出来ないと思うので面会は医師から断るように言われていますが、尚樹さんの思いを考慮して私の判断で面会を許可しますので、手を消毒してマスクをはめてお部屋に入ってください」
「ありがとうございます」
言われるようにして尚樹は扉を開け、中へ入った。
看護師が先に声を掛ける。
「来られましたよ、美代子さん」
うっすらと化粧しているのは、看護師が施したのだろう。
やせ細った身体を横たえて寝ている姿を見て、尚樹は声も出なかった。
「美代子さん・・・ボクは・・・」
そこまで言って声が詰まり、後は泣くだけの尚樹だった。
看護師が傍に来て背中をさすりながら話しかける。
「尚樹さん、話しかけてあげて。美代子さん、良かったねこんな素敵な彼氏さんがいて。」
尚樹は出会いの時からのことを思い出しながら話し続けた。
一筋の涙が美代子の頬に流れて、すべてを知っている看護師は尚樹の手を美代子の手と繋がせた。
「お別れじゃないのよ。ずっと未来にまた会いましょうと約束するの。美代子さんと尚樹さんは永遠なのよ」
京都の恋は二人にとってトキメキであり、そして悲しみではあったが、愛するということはどういうことなのかということを尚樹の心に深く刻みつけて終わった。
作品名:「サスペンス物語 京都の恋」 最終話 作家名:てっしゅう