七十五日
その日の未明には日馬富士が引退する旨を周囲に告げている。日馬富士の騒動について自分は傷害事件そのものを問題とするより、いつの間にか被害者側の貴乃花親方の一挙一動に目が行っていた。恐らく世間もそうだろう。外伝のほうが一人歩きをしてしまった恰好だ。
同未明には北朝鮮の弾道ミサイルが発射されて、日本海に落下した。今は平昌オリンピックの南北友好ムードにかき消されているが、彼の国はあの時日本中に不安を巻き起こしたことを忘れてはならない。そんな国が今のところは牙を隠して、有利な援助を引き出したいと韓国にすり寄っているのだ。ちなみにこの日、北海道の松前小島沖に北朝鮮の木造船が漂着したが、その後この乗組員たちは島を荒らしまわったことがわかった。ひどい話だと思ったものだが、北朝鮮船の漂着が減っていくにつれ、自分はこんな出来事も忘れていた。逆に２、３か月前のことだと思っていたのに１年も経っていた事件がある。金正男氏の暗殺事件が起きたのは去年の２月１３日のことだった。国家が主導してテロを起こす体質に怖気を振るったが、これほど強烈な事件でも、他人に言われるまでは念頭から去っていて、ついこの間事件が起きたようなつもりでいた。
報道は１１月２９日付けだが、その前日には財務省が森友学園と地中のごみについて協議した時の録音データの内容を認めている。だが文書の記録については、同省の佐川前理財局長が「廃棄した」と言い続け、うやむやになった。佐川氏はその後国税庁長官に栄転した。ところが最近になって、同省は関連があると見られる内部文書を国会に提出した。そのため佐川氏の証人喚問が求められているが、もしこの文書の提出がなければ、自分は佐川氏の発言やその背後にある権力に怪しいものを感じながらも、森友問題を忘れ去っていただろう。
物覚えの悪い自分も含めて言っておきたい。日々の生活や次々に起こる事件に目を奪われて、私たちは過ぎし日のことを忘れがちだ。また適度に忘れるからこそ、人間は頭がパンクせずに済んでいるのだろう。だが、世の中のおかしな動きをウオッチするアンテナを鈍らせてはなるまい。世間には、７５日で人々が忘れ去るのを狙っている連中もいるんだから。