「サスペンス劇場 恩返し」 第二話
「それはつかぬことを聞いてしまいました。ごめんなさい」
「いえ、お気にされないように。お布団は隣のお部屋に敷いてあります。いつでもお休みなさってください。わたくしは少しやることがありますのでお気遣いされなくて結構です」
「ありがとうございます。では、酔いも回ってきたので寝かせてもらいます。おやすみなさい」
「おやすみなさい。明日の朝はおかゆを囲炉裏に架けておきますので、召し上がってください」
「わかりました」
隆は布団に入ると直ぐに寝入ってしまった。疲れが出たのと、お酒が程よくまわっていたのであろう。
外が明るくなって布団から出て囲炉裏に行くと鍋が架かっていて、おかゆが煮えていた。
顔を洗って詩乃を探したが居ない。
よく見ると囲炉裏端の茶碗の置いてある盆の下にメモが挟んであった。
「おはようございます。私は出かけないといけませんので早朝より失礼します。お出かけの時は全部そのままにして結構です。夜に片付けます。昨日は楽しい時間をありがとうございました。詩乃」
隆は鍵を掛けずに出かけて行ってもいいのだろうかと考えたが、この辺りではどこの家も鍵など掛けていないのかも知れないと感じられた。
まもなくJAFが来て、車は無事走れるようになった。
約束している民家へ取材のために車を走らせた。
語り部の話は聞けば聞くほど平家の落人たちの苦しみや悲しみ、隠れて生きることの知恵などに深く共感を覚えた。
また来年今度は最後にすると言って隆は自宅へと戻っていった。
月日は一年が過ぎた。
雪が降り積もる県道を民家の近くで予約してある民宿へと向かっていた。
珍しく対向車が下り道を降りてきた。すれ違うことが危ないと感じ、隆は左側へ車を寄せた。
その瞬間、左前輪が側溝に落ち車が大きく傾いた。
「またか!こんちくしょう・・・うん?ここは去年と同じ場所に思えるけど、まさか・・・」
周りを見ると見覚えのある家がそこにはあった。
車から出てその家に向かう。ほぼ同時に玄関が開く。
「あら!村林さま、またお会い出来ましたね」
「詩乃さん、本当ですね。去年と同じ場所でまたやってしまいました」
「そうでしたの。ではあの時のようにわたくしのところで朝までお過ごしください」
「いいのですか?厚かましいけど、色々話がしたいと思うから世話になろうかな」
「ご遠慮なく、どうぞ中へ」
暫く囲炉裏端で話しをして、お風呂が沸いたからと勧められた。
今日は詩乃が入ってくることを拒んだりはしなかった。むしろドキドキしながら待つ自分になっていた。
それは詩乃も感じていたのだろう。
背中を流すのではなく、一緒にお風呂に入るという態度になっていた。
作品名:「サスペンス劇場 恩返し」 第二話 作家名:てっしゅう