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⑦残念王子と闇のマル(修正あり2/4)

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理巧の言葉にホッと息を吐くカレンを、麻流は先程とはうってかわって妖艶な瞳で見た。

「おまえの国を滅ぼした、仕返し?」

言いながら、にやりと口角を上げる。

「ふふ…ヤりたいなら、ご自由にどうぞ。」

今まで見たことがない…まさに娼婦の表情の麻流に、カレンは驚き戸惑った。

青ざめるカレンを冷ややかに一瞥した麻流は、理巧へ声を掛ける。

「理巧。これは正式な任務じゃないでしょう?」

「!」

この瞬間、理巧は麻流の行動の意味を全て理解した。

「カレン様。…姉上は…キースの依頼で私が連れ去った時の記憶が蘇っています。」

「!!」

麻流を拘束したまま、カレンは理巧をふり返る。

そして、もう一度麻流を見た。

「…ぼくを…キースだと、思ってる?」

理巧は、麻流に一歩近づく。

「姉上、こちらはカレン様です。」

「…カレン…。」

その瞬間、麻流は今朝の夢のことを思い出した。

(もしかして…『カ』は『カレン』?)

自らを拘束している男を見上げると、金髪にエメラルドグリーンの瞳が印象的で、見るからに育ちが良さそうだ。

(『金』と『エメラルドグリーン』。)

心臓が一気に激しく鼓動する。

なぜかひどく懐かしく愛しく感じるのに、どうやっても思い出せない。

必死に霞の向こうの記憶を引っ張り出そうとする麻流の思考を遮るように、理巧の言葉が聞こえる。

「私は頭領からの正式な任務で、姉上の代わりにカレン様の護衛を務めています。」

理巧の言葉に、麻流が怪訝そうな顔をした。

「私の代わり?」

(ということは…もとは私が護衛をしていた任務対象者?)

眉間に皺を寄せる麻流の考えを肯定するように、理巧は静かに頷く。

「はい。以前は、姉上がお守りしていた方です。」

麻流は視線をさ迷わせ、再び考える素振りを見せた。

カレンは、そんな麻流の拘束を解いてぎゅっと抱きしめる。

「マル。」

愛情をこめて、これ以上ないほど優しく名前を呼んだ。

その瞬間、麻流の背筋に甘い痺れが走る。

「…ぁっ。」

小く甘い声を上げた自身に、麻流は驚いた。

(…任務対象者…ただそれだけの関係?)

鼻と鼻がつきそうな距離で、カレンと見つめ合う。

エメラルドグリーンの瞳に見つめられると、心が甘く満たされなぜか愛しさが溢れる。

抱きしめられている腕の強さも、白い喉仏も、香りも…ひどく懐かしい。

たしかに、体は、五感はこの人を覚えている。

けれど誰なのか、頭でも…心でも…思い出せない。

ただ、なんとなく、ただの忍と主の関係ではなかった気がする…。

戸惑いに揺れる大きな黒水晶の瞳を見つめていたカレンは、華やかに美しく微笑んだ。

「マル。ひさしぶり。」

言いながら、そっと麻流を降ろし、離れる。

「ぼくは、おとぎの国第一王子カレン。」

「…おとぎの、国?」

麻流からは、すでに殺気が消えていた。

「そ。マルが一時期護衛の任務に就いててくれたんだけど、ちょっと前のことだから覚えてないかな?」

「…。」

麻流は視線を横に流して、申し訳なさそうにする。

「ああ、責めてるわけじゃないんだ。マルは人気の忍だから、たくさんあちこちで仕事してるわけだし。覚えてなくて当然だよ。」

カレンは花が咲くように華やかに微笑みながら、床に放り出していた自分の剣を拾い上げた。

「…元気そうで、ホッとしたよ。」

剣を腰に差し直すと、カレンはポンと手を打つ。

「あ、リンちゃん、元気にしてる?」

カレンの言葉に、麻流がハッとした表情で顔を上げた。

「あなたが、リンちゃんの主?」

麻流の言葉にカレンは少し驚いたけれど、すぐにやわらかく微笑む。

「ん。リンちゃん、星の子どもを授かったんだってね。」

カレンの言葉に、麻流は合点がいったように頷いた。

「ああ、それで星の厩舎に…。」

そして、ハッとした様子で顔を上げる。

「じゃあ今、星を使っているのは」

「はい、ぼくです♡」

カラッとした笑顔で可愛く片手を上げるカレンに、麻流の胸が甘くしめつけられた。

「っ。」

思わず目を逸らす麻流に、カレンは一瞬表情を失う。

けれど、すぐに思い直したように笑顔を作った。

「勝手に借りて、ごめんな。リンちゃんがあの通りだし、申し訳ないけどあともう少し借りてていいかな?」

麻流は、目を逸らしていることを誤魔化すように忍刀を拾って背中へ背負う。

そして腰に暗器のベルトを巻くと、顔を黒い布で覆った。

「…もう、私の馬ではないし…ご自由に。」

そう言う口調と目付きは忍そのもので、久しぶりに向けられた忍然とした冷たい視線にカレンは眉を下げる。

「…。」

無言でカレンと視線を交わす麻流は、なぜかその視線をふり切ることができないようだ。

「帰るよ。」

そんな空気を絶ち切るように、空が姿を現す。

「…ソラ様。」

カレンが驚いて空を見ると、理巧とよく似た切れ長の黒水晶の瞳がカレンをとらえた。

「元気そうだな、カレン。」

マスクをつけていない空の口角がきゅっと上がる。

それと同時に切れ長の黒水晶の瞳が三日月に細められた。

素顔のまま初めて満面の笑顔を向けられたカレンは、思わず泣きそうになる。

そんなカレンの前で、空は麻流の後頭部を掴むと至近距離で視線を交わした。

その瞬間、麻流の瞳から光が失われる。

そして空が麻流を抱きしめると同時に、その体から力が抜けた。

意識を失った麻流の体を大事そうに抱き上げた空は、理巧へ視線を流す。

「廃人になるっつっただろ?」

冷ややかな怒りを向けられた理巧は、頭を下げた。

「申し訳ありません。」

空は再びカレンを見ると、無表情で告げる。

「麻流の記憶は、俺の術で完全に封じられている。」

「!」

目を見開くカレンに、空は容赦なく言葉を重ねた。

「もう、二度とおまえを思い出すことはない。」

「なぜですか!?」

空にくってかかろうとするカレンを、理巧が素早く制する。

「マルのお腹の子は、ぼくの子だった!別れる理由がないじゃないですか!!」

けれど、理巧を引きずるように、背の高いカレンが空へ近づいた。

空は、そんなカレンの瞳を真っ直ぐに見つめ返す。

「おまえの子だってわかった時、密かに俺ら祝杯あげたんだ。んで、結婚の下準備もしてたんだよね~実は。」

「…え?」

意外な返事に、カレンが拍子抜けした声を出した。

「あ~、でも、それはナシ。」

空は、腕の中で眠る麻流の黒髪を、そっと撫でる。

「おまえがいなくなったショックで流産しちまったもんだから…おまえの子だってわかった直後からこいつ、心を病んじまってさ。」

浅く笑う空の表情は、この上なく悲しげだ。

「おまえのこと全部忘れちまって…思い出させようかとも思ったんだけど」

そこで言葉を切った空は、カレンを切なく見る。

「戦争になりそうだからさ。」

カレンは驚きすぎて、ひゅっと息をのむ音だけが部屋に響いた。

「…どこと、どこがですか?」

理巧が強ばった表情で訊ねる。

「そりゃ、うちとおとぎの国。」