⑦残念王子と闇のマル(修正あり2/4)
「ご足労くださり、ありがとうございました。頭領の命により、私がおとぎの国までお送り致します。」
瞬時に忍になった理巧に驚きながらも、ダナンは威厳ある微笑で応えた。
「マル。」
ダナンに声を掛けられ、麻流は戸惑いながら跪く。
「…また、我が国で会えるのを楽しみにしておるぞ。」
その言葉で、麻流はダナンが何者か理解した。
「は。大事な王子様を、命に変えましてもお守り致します。」
麻流の言葉に、3人が顔を見合せる。
そして、同時に吹き出した。
「はっはっは!」
「マルはどんな時も変わらないな!」
「根っからの忍ですね。」
お腹を抱えて笑う3人を麻流が怪訝そうに見つめていると、その頭に大きな手が乗る。
「カレンも、命懸けでこの忍のお姫様をお守りするのだぞ。」
温かな手で頭を撫でられながら、麻流はダナンの顔をジッと見つめた。
(こんな柔かな国王に今まで出会ったことない。…出会ったことないはずなのに、とても懐かしく、心が温まる…。)
「ではな、カレン。」
カレンは久しぶりに会えた父との別れに瞳を潤ませながら、麻流の隣に跪く。
「はい、父上。お気をつけて。」
長い髪からのぞく瞳を半月にして、カレンは花が咲くように華やかに笑った。
「帰国の際には、新しい家族も増えてます♡」
その無邪気な笑顔に、ダナンも相好を崩す。
「子馬だけにしておけよ。」
ダナンの冗談に、理巧が口元をおさえた。
カレンが頬を赤くしながら理巧を睨むと、理巧は瞬時に顔を引き締め、ダナンを見上げる。
「失礼致します。」
そう言うが早いか、理巧はダナンを抱えると宿の窓から姿を消した。
カレンが窓辺に駆け寄ると、二頭の馬が遠ざかるのが見える。
その姿が見えなくなっても、暫くカレンはジッと窓の外を見つめていた。
伸びた金髪が冬の寒風にさらわれて煌めく背中を、麻流は黙って見つめる。
確かにこの背中には、見覚えがあるけれど思い出せない。
こんなにも美しく懐かしく感じるのに、なぜカレンとの思い出がひとつも出てこないのか…。
麻流は額に手をやると、そのまま頭を抱え込んだ。
(つづく)
作品名:⑦残念王子と闇のマル(修正あり2/4) 作家名:しずか