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しょうきち
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冒険の書をあなたに2

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第二章 グランバニアへ



 その後すっかり快復したポピーは再び医務室で診察を受け、問題がないと確認されてすぐに女王陛下の使者がやってきた。
 グランバニアほどの人々のざわめきもなくひっそりと静かな廊下を進み、ポピーとマーリンは外へと連れ出されていく。
「ねえマーリンお爺ちゃま、ルヴァ様は謁見の間って言ってなかった?」
 どう考えても反対方向である。怪訝な顔でそう問いかけると、マーリンはいつもの柔和な笑みで答えた。
「天使様が庭で茶会を催したいと仰ったそうでな、賢者様と相談の上でお決めになられたぞ」
 オロバスに名付けた後、お忍びでやってきた女王陛下が「難関」を突破すべくルヴァにあれこれと質問を浴びせ、彼はその問いにひとつひとつ丁寧に向き合っていた。
 敢えてはっきりとした答えを出さずにただ仄めかし、考えの手掛かりとなるキーワードを選び、彼女に考えさせ、答えを導き出させようとする姿がマーリンにはとても微笑ましく見えた。
「尤も、ただの茶会ではないがな────」
 そうしてひそひそと囁かれた衝撃の内容に、ポピーの頬には思わず歓迎の笑みが花咲いた。

 宮殿の中庭に案内された二人の視界に、見慣れた幌馬車が飛び込んでくる。
 ジュリアスが近くの木にパトリシアを繋いでいるところに出くわして、ポピーは少し離れた位置からその様子をまじまじと眺めた。
 パトリシアの体にこびりついていた泥は綺麗に落とされ、以前よりも毛艶が増して白くなっている気がする────そんなことを思ったとき、ジュリアスがこちらに視線を向けた。
「そなたがポピレアか」
 低音で良く響く口調には厳格さと共にどこか艶があり、ポピーはびろうどのようなその声を心地よいと思った。
 彼が守護聖らしいというのは身なりや雰囲気ですぐに分かったので王女らしくすっと膝を折り、丁寧に一礼をする。マーリンもまた恭しく腰を折った。
「グランバニア国第一王女のポピレア・エル・シ・グランバニアです。どうぞポピーとお呼びください。隣にいるのは従者の魔法使いマーリンです」
 シンプルな作りながらも仕立てのいいドレス────恐らくはオリヴィエの見立てだとジュリアスは思った────を難なく着こなして、ロザリアほど優雅とまではいかないが場慣れた仕草が彼女の高い身分を表している。
 特に怖がるふうでもなくにこりと口角を上げたポピーにつられ、ジュリアスの目も柔和な笑みの形になる。
「私は光の守護聖ジュリアスだ。今日までそなたの馬を預かっていたが、パトリシアはとても良い馬だな」
 褒められてブルルと一鳴きしたパトリシアが鼻先をジュリアスに擦りつけて、ジュリアスはそんな彼女へとても優しいまなざしを注ぎ、首筋を撫でさする。
 ポピーにとってパトリシアはずっと共に旅をしてきた仲間でもあり、女王陛下の言葉通りにこうして手厚く保護されていたのが嬉しくて堪らない。
「ジュリアス様のこと、大好きって言ってます。大事にしてもらえて良かったね、パトリシア!」
 今度はポピーに鼻先をくっつけるパトリシア。その目が見たこともないほど柔らかな光を湛えていたため、どうやら随分と王女を心配していたのだろうとジュリアスは慮った。
「……そうか。特段大したことはしていないが、そのように思ってもらえたのなら幸いだ」
 馬に好かれる者に悪い者などいない────とまでは言い切れないが、馬とは賢く優しく人の心を読む繊細な生き物だとジュリアスは知っている。
 だから彼は、彼が敬愛してやまない女王陛下が心を配り、少しの不自由もないようにと取り計らっているこの少女について、少々甘い判定をしてしまうのだった。
 そして色々な意味で破天荒、常識の範囲外を地で行く女王陛下が現在画策していることについても。
「間もなく会議と言う名の茶会が始まる。それまで好きなところへ着席して寛いでくれ」

 それからぽつりぽつりと美男子たちが集まってくる様子を、ポピーはぼうと見つめた。
 やがてゆっくりとした足取りで歩いてきたルヴァの姿を目に留めて、ほっと胸を撫で下ろす。
(ルヴァ様はいつも落ち着いてらっしゃるから、やっぱり安心できるなあ……)
 他の守護聖たちもポピーから見ればそれなりに落ち着いてはいると思うが、あの冒険の日々の記憶もあってか、ルヴァに対しては親しみやすさが勝るのだった。
 体もすっかり快復した今となっては、ぽかぽかと常春の陽射しが降り注ぐ聖地の居心地の良さは天国のようだと思ううち、ポピーの目がルヴァの顔に釘付けになった。
 隣に座るマーリンの袖をちょいと引き、声を潜めて話しかける。
「ねえ、マーリンお爺ちゃま……ルヴァ様の左のほっぺ、なんか変じゃない?」
「こらポピー、口を慎みなさい……ふうむ、そう言われれば何やら光って見えるのう……」
 じいっと観察してみると、左右の頬の光沢が違って見えることに気づく。
 なんだか仄かに赤みがかっているけれどあれは何なんだろうと考え込んだ矢先、オリヴィエがルヴァに近付いて自らの頬を指差している。
「ルヴァ……ついてるよ、ラメ」
 言われたルヴァは左の頬をそろりと撫でて、何かを思い出した様子で瞬時に耳まで赤くなっている。
「えっ、あっ……! ご、ご指摘ありがとうございます、オリヴィエ。ああもうっ、さっき拭いたのにっ」
 しどろもどろでそう返事をして、すぐに懐からハンカチを取り出して頬と唇を丁寧に拭った。
 その一部始終を見たポピーが、再度マーリンの袖を引く。
「なんか拭いてたね」
「そうじゃのう……」
 ルヴァの仕草でどういうことかを悟ったマーリンが苦笑混じりで口元を僅かに緩ませながら、それ以上の言葉を控えた。
 方や、何だったんだろうといまだ小首を傾げていたポピーは、それから間もなくして状況を理解した。
 補佐官とともに現れたアンジェリークの唇に乗せられた薄紅色と、頬のそれとがとても良く似た色だったからだ。
(あれって、アンジェ様がしたんだよね、きっと……)
 なんだかいけないものを見てしまった気がしてポピーが赤面して俯いている最中、補佐官ロザリアが張りのある声を上げた。
「只今から御前会議を始めます。まずは皆さんにお客様を紹介しますわね」
 ロザリアと視線で頷き合ったアンジェリークが笑みを湛えて言葉を紡ぐ。
「もうお会いした人もいるでしょうけど、わたしとルヴァが以前とてもお世話になった方たちが、異世界から遥々いらしてくれました」
 守護聖たちの視線がポピーへと一気に集まり、アンジェリークがこくりと小さく頷いたのを見て、ポピーたちは静かに立ち上がる。
「グランバニアから来ました、ポピレア・エル・シ・グランバニアと従者のマーリンです」
 緊張した表情ながらも慣れた様子で優雅に一礼をしたポピーへ、守護聖たちは皆温かい視線を送った。
 それからアンジェリークの表情が女王然としたものへと変わり、話は続く。
「ポピーちゃんが来た理由は後ほど詳しくお話しますね。先にここ最近聖地で起きていた出来事について、皆さんには報告書にまとめて貰いましたのでそちらから────ロザリア、お願い」
 書類の束をとんと机で慣らし、ロザリアが話し出した。