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しょうきち
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冒険の書をあなたに2

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小話 アプールの備忘録(受難の記録)



 暑くもなく寒くもない聖地はどこもかしこも整えられていて、とても美しい場所だ。生まれ故郷のジャハンナや今住んでいるグランバニアも好きな場所だけれど、こういうところで余生を送るのも悪くない。
 そういうわけで、ここにボク────魔界のプレミアムなエビルアップル、アプールの大冒険の話を書き留めておくこととする。

 ぴょこぴょこと陽気に飛び跳ねて道を歩いていく。誰もかれもがボクを見てびっくりしているのに、あっちに行けと言われたりしない。聖地はなんていいところなんだろう!
 遠目にキラーマシンのロビンが見えて、ボクは追いつこうと必死で走った。
 ロビンはボクよりずっと大きな機械だからすぐに先へ行ってしまって、途中で何度も見失った。アイシス様の早歩きに追いつけなかったリュカみたいだ。
 それでも通って行った方向目がけて一生懸命走っていたら、ようやく銀と茶と金の髪の男の人たちと一緒にいるところに遭遇した。
 銀髪の人は真っ赤な目をしていて、茶色の髪の人をちょっと小ばかにしてた。それを女の子みたいにきれいな金髪の人が間に入って止めているようだった。
 ロビンは銀髪の人に何かの液体をつけた布やブラシでごしごしと体を拭かれていた。あっという間にピッカピカになっていって、なんだか嬉しそうだった。何をしているのか分からなかったけれど、ボクは夢中になってその様子を眺めた。銀の髪の人は細長い棒のようなものを幾つも並べて、ロビンの腕を曲げたり伸ばしたりしていた。
「よし、直ったぞ!」
 そう言って銀髪の人が顔を上げたとき、ボクと目が合った。
 銀髪の人は口の端を上げてニヤリと笑うと、丁度いいとかなんとか言いながらボクを抱え上げて高い高いをしてくれた。それから茶髪の人へ向けて放り投げられ、茶髪の人はふわっとボクを抱き止めてくれた。
 そのまま木の幹の前に茶髪の人が立たされて、ボクはその頭の上に載せられた。これはなんだかいやな予感がする。ボクの気孔という気孔からどっと果汁が溢れ出した。
「あのりんごを狙ってみろ」
 ロビンが言われるままにボウガンを構え、しっかりとボクに照準を合わせていた。ピッ、ピッと音がして目が赤く点滅している。攻撃までのカウントダウンが始まった。
「待ってよロビン、ボクだよ! 待ってってば!」
 そう叫んでみてもロビンはボウガンを構えたままだった。恐怖に皮を引きつらせながら叫んで逃げ出したとき、金髪の人がさっと両手を出してボクを抱き締めてくれて、その場から離れることができた。
 あんなボウガン食らったら、ボクは粉々だ。ロビンのばか。

 金髪の人は緑の守護聖マルセル様、銀髪の人は鋼の守護聖ゼフェル様、茶髪の人は風の守護聖ランディ様だった。
 マルセル様に抱っこされたボクは、「ゼフェルのこと許してあげてね」と言われて頷いた。
 それにしても、マルセル様もにこにこと話しかけてくれる優しい人だ。ボクがお喋りのできるりんごだからって変な目で見たりしない。守護聖様って凄いな!
 でも何を食べているのか聞かれて、(肩に留まってたおいしそうな小鳥を見つめながら)鶏肉って答えたらとても微妙な顔をされた。なんでだろう。ボク、こう見えて肉食りんごなのに。
 マルセル様はお庭の果樹園をボクに見せてくれた。小規模だけど並のりんごたちがたわわに実っていた。ボクはあいつらよりも二回りは大きいジャハンナの魔界りんご、艶だって香りだってボクのほうが格上さ。ふふん。……とちょっぴり得意になっていたら、お帰りなさいませと頭を垂れていたメイドさんへ向けて、マルセル様は恐ろしいことを口にした。
「今日はチェリーパイはやめてアップルパイにするね!」
 ボクは再び叫んで逃げ出した。

 次に飛び込んだ場所には炎の守護聖オスカー様がいた。氷のような淡い青の瞳で一瞬きつく睨まれて、ボクは動けなくなった。
 なんて強い眼力だろう。それに鎧を着込んで剣もちゃんと腰に下げてる。リュカとどっちが強いかな。
「ボクと同じ真っ赤な髪の毛がかっこいいね!」
 そう言ったら、オスカー様はちょっとだけ目を丸くさせてからきれいにウインクをして、「赤は情熱の色だからな」って言ってとっても優しい笑顔になった。
 だけどそのあと、「あんまりここに長居すると焼きりんごになるぜ」と言われて果汁をいっぱい漏らしてしまった。お仕事の邪魔しちゃったのかもしれないね、ごめんなさい。

 そこからちょっと走って、とっても派手なお兄さんを見かけたからついていったんだ。
 そこはとってもおしゃれなお部屋でね、凄くきれいなものが部屋中を満たしてた。後から知ったけれど、そこが夢の守護聖オリヴィエ様の執務室だったんだ。
 ボクの世界にはないようなものがたくさんあって、ボクは物珍しさにキョロキョロと見回してた。
 視界の片隅に見覚えのある魔物────おどる宝石のジュエルが呑気に宝石を飛ばしながら、ボクと同じように部屋を眺めてた。
 そこへかつかつとヒールの音がして、オリヴィエ様が戻ってきた。ボクはさっと物陰に隠れて様子を見ていたんだけど、ジュエルは知らない人間が近づくとただの巾着袋に成りすます。くたっとしぼんで宝石も飛ばさずにじっとやり過ごすんだ。
 宝石が落ちて机に当たる音を聞いたオリヴィエ様がおもむろに振り返る。
「あら、何これ……随分大きな石ばっかり。ルヴァが置いていったのかな〜この間何か取り寄せたとか言ってたし。ラッキー」
 そう言って鼻歌交じりでジュエルの宝石を次々と箱にしまい込んでいく。
 その残酷な光景を、ボクはただ恐怖の中で見ているしかできなかった。
 ジュエルにとって、あの宝石は命そのもの。呼吸をするためにあるようなものなんだから!
 でも結局ボクはそこから隙を見て逃げ出してしまった。ごめんねジュエル、ボクには助けてあげられそうもない。

 ひたすら走って逃げるうちに、噴水のあるお庭に出た。
 綺麗な竪琴の音色が聴こえてきて、ボクは吸い込まれるように音のするほうへと近づいていった。
 噴水の側で竪琴を弾いていたのは、水色の長い髪が特徴的な水の守護聖、リュミエール様だった。
 リュミエール様はボクの姿を見てちょっとだけ驚いたような顔をしたけど、すぐに優しい笑みを浮かべて頷いてくれた。
 二曲、三曲と続けざまに流れていく美しい音色にうっとりと聴き入っていたら、マルセル様が近づいてくるのが見えてボクは慌てて実を隠した。
 草の陰からそうっと様子を見たら、マルセル様は袋に入ったクルミを手渡している。
「リュミエール様、良かったら一緒に食べませんか」
 にこにこ笑顔のマルセル様へ、リュミエール様が笑顔でお礼を言って────さらっとクルミ四つを片手で割った。
 ……あのままいたら殺されてた気がするのは、きっと気のせいじゃない。

 それからふらふら彷徨って入ったお部屋はとっても暗くて、なんだかいい匂いがしたんだ。どこかで嗅いだことのある木の匂いだけど、どこだったか思い出せない……。
 大きな机の上にはまあるい透明の玉があって、その後ろをよく見たら黒くて長い髪の人がいて、すごく驚いたせいでまたぶわっと果汁が浮き出た。保護色はやめて欲しいよ、芯臓に悪い。