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粉の中の子供

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雪が降る中、とあるショッピングモールへ向かう途中のことである。地下鉄に乗るかいなか迷っていて、丁度駅に着いたときに乗らないと決めた。駅とは逆の方向にある赤信号で止まった。そこに、一人の子供がいた。
多くの車両が行き交う交差点で、歩行者はゆっくりと足元に気をつけながら灰色の雪を踏みしめていた。灰色というのは、汚れによるものではない。夜であったからだ。

そんな状況で、子供は横断歩道のすぐ手前に座り込み、雪をかき集め始めた。数人の大人(俺も含む)の注目の的となってもなお、かき集める。そして雪の塊を作成した。その塊をどうするのか是非とも知りたかったが、周りに不要な大人がおり、尋ねることはできなかった。ゆえに傘を持つ手が疼き、目玉。斜め下すなわち子供に向けるしかなかった。

信号が青に変わる。しかし子供はまだ視界にあった。俺は雪の塊をどうするのか、興味をそそられていた。
結局、子供は塊をどうすることもなく、落とした。これはとても残念な結果である。俺は絶対投げると思っていたからだ。危険な横断歩道の前、かつ多くの人目の中で何の躊躇いもなく座り込んだ小さき勇者は、自ら塊に注いだ何らかのエネルギーを、粉が重力にただ引かれて落下する暗黒の世界に解き放ち、この世界に力を与えるはずだ!などという妄想をしていたが、やはり妄想に過ぎなかったと実感した。
まあそれは仕方ないのかもしれない。その子供の行いを観察していたとき、俺は確かにその子供を「かわいい」と思って見ていた。他の大人もそう感じていたと思う。
つまり、子供は周囲をそう思わせるだけのエネルギーを既に放出していたのではないか。そう考えると、雪の玉なんかに投じるエネルギーはほぼ無かったことが予想される。

横断歩道を渡り終えた後、偶然俺と子供が進もうとする方向が同じだった。俺の視界にはは尚もその子供が入っていた。そして子供は、街路樹の一つに近づいた。それは棕櫚であった。その上に積もった雪は棕櫚の葉の美しい輪郭を隠していたが、子供の手によってその一部が取り除かれた。すると、先程まで邪魔者だった雪が、棕櫚の濃い緑色を、白く塗った感じになった。
それに子供が気づいていたか否かは知らないが、俺はその子供に対して「すごい…」と瞬間的に思った。白い葉をもつ棕櫚を創造したからである。
その子供はそれに気づいていたのかもしれない。自分の手で葉を少し「クイ」と下に引いただけで、突如輪郭が現れたのだ。実際、子供はその場に立ち止まって、葉を眺めていた。

そこで俺の観察は終了した。
子供と白い棕櫚を俯瞰していたいという欲は確かにあった。しかしそれを阻害するものがあまりにも多かった。自分の常識もその一つである。よって、歩道を流れてゆく他人とともに、俺も流れていくしかなかった。
粉のせいで手がかじかんだ。気温のせいで寒さが襲った。
再び、ただ目的地に向かって歩いた。その子供より面白いものは道中に無かった。

子供はうるさいイメージがあって、あまり好きではない。夜勤を終えて帰宅し、睡眠に入ろうとしたときに、外から子供が騒ぐ声が聞こえたときなどはムカつく。

しかし、子供の中にははいろんなものに目を向け、しかも周囲を気にせず行動し、さらに周りに不快感を与えないという「能力」をもつ人もいる。いや、いた。
それを目の当たりにしたとき、俺は子供を尊敬するほど「すごい」と思ってしまい、その意味で子供に憧れを抱く。全ての子供について言えることではないことは、自分の子供時代に既に見知ったことだ。
今日見た子供は尊敬するほどではないが、「すご」かったと思った。

地下鉄を使わなくて良かった。
作品名:粉の中の子供 作家名:島尾