「サスペンス劇場 幽体離脱」 最終話
「おれとおまえは同じ幽体と言ってもレベルが違う。この世界で修行すれば人間の誰が幽体として大きいのか解るようになるから、その相手を今のおれのようにして入れ替わればいいのだ」
「それが可能だとしてもまだ天国へは行きたくないのだ。母親も居るし、結婚だってしていないんだぞ。おれにしか代わってもらえないというのならもっと老人になるまで待てばいいじゃないか」
「条件を出そう。一つだけだぞ。お前が望む肉体へ魂が入れるように力を与えよう。これが使えるのは一度だけだ。幽体離脱してここの氏神様を守るということが絶対条件だ」
「勝手なことを言うなよ。氏神様を守るって具体的に何をするんだ?それにおれ自身とは違う身体に入れるなら、お前がそっちへ入って自殺すればいいだろう」
「もう時間が無い。お前の身体しか上に行くことは叶わない。氏神を守るということはやがてわかるだろう。幽体というのはいいやつばかりじゃないからな。ここに戻ってきたことと、与えられたおまえの運命に逆らえないということを受け止めろ。では、次は天国で会おう」
男はそう言うと修平の幽体に強い光を浴びせて自分は修平の身体に入った。幽体としての修平は男の魂が入り込んだ自分の身体を見ていた。
起き上がって、天井にロープを掛けて首を吊った。それは手際よく一瞬の出来事だった。
「何ということを・・・どうすればいいんだ。おれの首吊り死体を見て母親はどう思うのだろう・・・酷いことをしやがった」
考えても、考えても出口が見えない修平だったが、あの男が言った一度だけ誰の身体にも入れるということが本当なら、今の気持ちを救える方法があると気付いた。
警察が来て実況検分をして、自殺ということで処理された修平の身体は自宅で葬儀を済ませ、焼かれた。
仏壇の前で手を合わせる母親は、小さな声でつぶやく。
「母さん、こうするしか救えないと思ったんだ。許してくれ」
そこには息子を失った母親の悲しみは無かった。
作品名:「サスペンス劇場 幽体離脱」 最終話 作家名:てっしゅう