狗賓の落書(二百文字SS集)
あのころ
ぼくがまだラジオのパーソナリティに恋してたころ、世界は今よりもずっと広くて、未来への夢は果てしなかった。受験勉強の合間に聴いた深夜放送の、なんと楽しかったことか。
やがて桜が咲き、青葉が茂り、ぼくはラジオを聴かなくなり、そのまま幾年かの月日が流れた。
残業でくたびれた帰りみち、何気なくつけたカーラジオから昔と変わらぬ、あの人の笑い声。フロントガラス越しに星が瞬いていた。そしてぼくは……少しだけ泣いた。
作品名:狗賓の落書(二百文字SS集) 作家名:Joe le 卓司