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STEP ONE(雷華シリーズ)

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 俺が LIEに入ってから半年以上過ぎた頃には、俺の生まれた時の名前は『田坂卓弥』だったって事とか、兄貴の名前が『田坂優吾』だって事とか、母親の話で色々 分かっていて、俺達は本当の兄弟なんだなって事に落ち着いていたけど、俺達の関係性はあんまり変わっていなかった。
 でも、全く変わっていないわけでもない から、お互いに色々考えたんだと思う。

 母親は優吾に会いたがったけど、母親自身も憎まれている可能性を考えたのか、恐いみたいだったし、優吾も、まだ会いたくない、と言った。中途半端だった。

 バンドでは努がライヴには来るものの、やたらと練習をサボるようになっていた。

 ライヴをやれば小さいライヴハウスとはいえそれなりに客の動員があったけど、それは意味が無い事で。

 努は秋ともめているのかと思っていたら、本当は、真矢ともめていたみたいだった。俺は努を嫌いじゃないけど、一緒のバンドでやるにはもうキツかった。
 これじゃあ、バンドじゃない、と思った。


「努と真矢って、何でもめてるの?」

「俺は、もめているつもり、無いんだけどね」

「もめてるじゃん」

「…奴はさ、俺がピアノ弾くのが許せないみたいだね」


 ピアノ?
 何、それ。


「俺って人間はさ、子供の頃からずっとピアノやってて。LIEを組んだ頃には弾いていなかったんだけど、秋が加入してすぐの頃かな、また弾き始めてて。… それがね、奴にはどうしても、いい加減に感じるみたいだよ」


 俺には分からない事だった。

 それで、いい加減なんだ?

 そう言われてみれば真矢の部屋にはキーボードとかあったけど、だから、ダメなんだ?
 ピアノが?


「何かさ、努にはバンドに集中してないって取られてしまってて。アイツが思う真剣さとか、バンドに対する信念とか、そんな物が俺とは合わないんだろうな」


 努が練習に来ないから、練習の後で話すのに四人だけで。

 本当は五人で話す事なんだろうけど、って真矢は顔をしかめていた。

 秋は面倒くさそうに座っていて、興味無さそうに煙草を吹かしてした。努が練習をサボるようになってから、殆ど誰とも口を利いてなかった。


「練習しないんならライヴやっても仕方ないんじゃねぇのか? 今みたいな状況でアイツの後ろで叩く気しねぇよ」


 優吾が吐き捨てるみたいに言った。

 それは多分、全員が思っている事だった。


「俺はさ、ピアノをやる事がバンド活動のマイナスになるとか考えてないから」

「それとはもう、関係無くなってんだろ。バンドへの姿勢がどうこうって言うなら、アイツは練習サボッちゃいけないんだよ」

「ま、最初の原因は俺だからね。俺はヤツがサボりだしてから何回か話したんだけど、やる気はあるって言うわけよ。だから、今まで待ったんだけどね」


 凄い、呆れたみたいに真矢がため息をついた。

 俺みたいなガキにだって分かるくらい、努の行動には意味が無い。サボる事で何か変わるとでも思っているんだろうか。

 俺には分からない。

 どうして、そういう行動なのか。

 分かりたいとも思わなかった。


「馬鹿みたい」

「みたい、やなくて馬鹿なんやろ」


 俺がそう言うと、秋がそっぽ向いたまま返事をした。

 もう、嫌いとかどうとかいう感じじゃなくて、心底軽蔑しきった声だった。
 久しぶりに声聞いたな、と思った。

 練習中も言われた事はやるけど、自分からは何の発言もしていなかったから。


「俺、努とはもうやる気しないから、俺は奴を切るよ」


 少し大きめに呼吸してから、一拍おいて。
 真矢の言い方は、決定していた事項を伝えるって感じだった。この話し合いなんかよりも前に、確実に決めていた事だった。


「それって、ヴォーカルを代えるって事?」


 俺は、不安だった。LIEを無くすのは嫌だったからだ。ヴォーカルを代えるっていうだけなら、もう仕方がない事だとは思うし、構わなかった。
 努のヴォーカルも結構好きだったけど。


「そう。解散はしない。だけど、ヴォーカルの変更ってでかい。だから、メンバーみんな考える事ってあると思うから、決めて欲しい。俺自身はこのメンバーで いければいいと思ってる」


 多分、真矢にとってこの判断を下すのって大変だったんだろう。当り前だ。俺なんかよりよっぽど長くあのヴォーカルの後ろで弾いていたんだから。それでも 決断しないといけなかったんだ。

 俺はギターで食っていきたいと思っているけど、まだ高校生の俺と、仕事をやりながらでもプロ指向のバンドをやっている真矢や優吾とは、覚悟って物が違う んだと思うから。

 秋は大学生だから、まだ俺と近い感覚なのかもしれないけど。


「努くんがいなくなるんやったら、俺は残ります。奴がおるんやったら、俺は辞めるって言うつもりやったけど」

「辞める気はねぇよ。ヴォーカル探すの大変だけどな。ま、どうにかなるっしょ」


 二人がそう発言して、最後に残ってしまった俺は他のメンバーから注目を浴びてしまった。

 ちょっといい気分。

 …じゃないって。俺はメンバーの意見を聞いた後で、自分の中では結論が出ていた事だからノンキだったけど、他のメンバーはそうじゃないんだった。
 ここでふざけたら蹴り飛ばされそうだ。

 だから、出来る限り神妙に、俺も残る、と言った。

 真矢が物凄くほっとしたような顔をした。


「あのさ、原因になった事だからここではっきり言っておくけど、俺はピアノを止める気は無いんで。でも、それがバンドの音にみんなが受け入れられない影響 が出たら、今度は俺を切ってくれていい。他の事でも同じように。お互いが納得できないなら、バンドを存続させる意味ってないから。その辺の事は全員頭に入 れておいて」


 それでその日は終わりになった。


 真矢は宣言した通り、努を辞めさせた。
 その後、ヴォーカルを見つけるのに三ヶ月かかったが、このヴォーカルには二ヶ月で逃げられた。
 結局、合わなかったんだから仕方無かったけど、時期がまずかった。
 次のライヴが二週間後に決まってしまっていた。