増幅使いは支援ができない
その世界の北の果ての場所、人など一人として居ないはずの枯れ果てた灰色の土地。
『はず』、の土地に――ある少年と少女が二人。
「――……」
その距離は五十メーターと言った所だろうか。
対峙するは、少年の数十倍程の大きな影。
形状は『虎』だが……『生物』とは程遠い存在であり、まるで『機械』。
全てのパーツは鈍い光を放つ金属で構成され、その硬い装甲の隙間からは青い光が瞬いている。
それは威嚇するかのように、殺意と機械音を発しながら少年達へと向いていた。
「……樹、下がってな」
「……」
少年が少女にそう告げると、少女は少年から距離を取る。
「『充電』」
少年はポケットへ手を突っ込み、そう唱えると同時に――少年の身体に迅雷が駆け巡っていく。
「――――!」
スチームを吹き出しながら、その身体に似つかわしくない速さで少年に突っ込んでくる虎。
距離が縮まる程に、加速し続ける巨体へも全く動じない少年。
それは余裕か、やがて虎の巨大な前足の爪が襲い掛かろうとしても、彼は全く動かなかった。
「――――」
彼が居た場所には、もう……何も残っていない。
虎は飛びかかった後の勢いを一瞬で弱め、次は少女の番だと言うようにそちらを向き機械音を放つ。
しかし、それは――『機械』の虎の油断だった。
「――どこ、向いてんだ?」
虎の背後、少年の低い声が木霊する。
少年は――『柄だけの剣』を腰に構え、右足を前に出し身体を深く落とす体勢で居た。
それはまるで、居合いの型のような。
「――――!」
虎は機械音を轟々しく鳴らし、一瞬で少年に向こうとするが――もう遅い。
少年は常人には見えぬ速さで、居合い宛ら刀を鞘から抜くように振り抜く。
そして鍔から、無かった筈の『蒼い炎』の刀身が姿を現していた。
「――…………」
一刻経てば、虎の身体は一つから二つへ。
機械音も、もう消えていた。
「お待たせ、樹。行こうか」
慕う表情で見る少女に、声を掛ける少年。
その少年の名を、『藍祐介』。
時は王国『ヴィクトリア』に、ある地球の学園の一クラスが召喚された時に戻る。
作品名:増幅使いは支援ができない 作家名:aaa