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頑張ってね……(掌編集~今月のイラスト~)

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「うふふ……やっぱり四日に届いたわ……」
 妹の彩からの年賀状を手にして、光(みつ)の頬は自然と緩む。

 彩は元旦に年賀状を書く。
「だって、年末に『あけましておめでとうございます』って手紙を書くの、おかしくない?」
 そう言う理屈らしい。
 幼い頃からちょっと他人様と違った所がある子だが、光はその天衣無縫さが好きだ。
 
 歳も一回り離れているが、何かと好対照な姉妹だった。
 控えめで大人しい光に対して、物怖じすることがなく積極的な彩。
 思慮深く、古風な光に対して、考えるより先に行動に移してしまう彩。
 読書や書道が好きな光に対して、体を動かすことが大好きな彩。
 
 ただ、お互いに影響を与え合い、受け合っている部分もある。
 活発な彩が意外と筆まめで、メールよりも手紙を書くことを好み、着物を好むのは光の影響だし、光がプールで泳ぐことを日課としているのは彩の影響、友人の結婚式に出席する為に、思い切って真っ赤なイブニングドレスを新調したのも彩の影響だ。
 そして、そのドレスは、今の夫が光にぞっこん惚れ込むきっかけを作ってくれた。
 彩も彼の送別会にそのドレスを光に無断で着て行って、彼を悩殺してやったと言っていたが、実は、『その時は、面白い娘だなぁとしか思わなかった』と、彼から直接聞いている。
 
 歳は一回り離れているが、結婚したのは同じ年。
 光が二十六歳で出会った今の夫と五年の交際期間を経て、熟考の末に結婚したのと反対に、彩は専門学校を卒業すると、高校女子サッカー部のコーチだった彼を追って三重県の会社に就職し、半ば押しかけ女房のように結婚したのだ。
 
 両親にしてみれば、自分でどんどん進路を決めてしまい、事後承諾のような形で、親元から遠く離れて一人暮らしを始めてしまったとあっては、素性が確かで彩が惚れ抜いている相手との結婚は認めてしまったほうが安心と言うものだ。
 光の時は、さんざん『良い人はいないの?』と気をもみ、交際が始まれば始まったで『まだ決められないの?』と気を揉んでいたが……。
 
 何から何まで正反対のようでいて、逆にどこまでも気が合う、そんな姉妹なのだ。

「あら……」
 年賀状の裏面に書き添えられていた一文、そこには……。
『今年の最大の目標、それは新しい命を授かること、初詣でもそれをお願いして、彼にも頑張ってもらうつもり、お姉ちゃんも頑張ってね』
「もう……あの子ったら……」
 光はくすくす笑いを堪えられなかった。
 なぜなら、光も初詣で同じことを願って来たばかりだったから。
(もし、願いどおりに子供を授かったら、また正反対の様でいて、どこまでも気が合う従兄弟同士になるのかしら……)
 
「どうしたんだい? やけにニコニコしているな」
 着物から普段着に着替えて戻ってきた、にこやかな夫の顔……。
「これよ、彩からの年賀状なの」
「彩ちゃんのことだから、何か可笑しいことでも書いてあるのかい?」
「別に可笑しいことじゃないけど……あなた」
「なんだい?」
「頑張ってね……」
 光は彩からの年賀状を、そっと夫の前に滑らせた……。


(終)