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てっしゅう
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novelistID. 29231
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「月ヶ瀬」 第二十話

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東京駅新幹線出口で久しぶりに夫の純一と再会した初江は、涙が止まらなくなっていた。
しっかりと肩を抱き寄せ、妻を労わる純一には言葉はいらなかった。
どんな思いで月ヶ瀬に居たのか、生きてきた38年間を振り返って一番つらかった時期を過ごした土地で、悲しみと出会ったことがどれだけ自分を苦しめたのか理解できた。

すぐにでも家に帰りたい気持ちを抑え、二人は山崎の事務所を訪ねた。

「先生、今回のことは残念でなりませんが、一つだけ救われたことがあります」

「初江さん、お気持ちはわかりますよ。静子もあれから少し立ち直って来ています。どんな悲しみも生きてゆくためには振り払わねばならないことなんです。救われたことって何だったのですか?」

「はい、私はあの村では嫌われ者でした。久保三津夫さんのお蔭で村の人たちには新しい考え方が芽生え始めています。もう自分がこの先故郷として訪ねても誰も嫌がらせをするようなことは無いと信じられたんです」

「そうでしたか。義兄の死はあなたにとって昔の悪夢を振り払うお役に立てたということですね。真相もそのうち佐藤警部が解明してくれるでしょう。早く忘れて自分の人生を充実されてください」

「先生、このたびは本当にお世話になりました。お体を大切になさって奥様と仲良くしてくださいね。夫婦はいつでもどこでも一緒に居なければいけないと考えるようになりました。そのことも今回の事件は教えてくれました。夫は私に勇気と愛をくれました。どんなことがあっても離れないで助け合ってゆくつもりです」

「いい言葉ですね。静子にもあなたの言葉は染み入ることでしょう。私も身体の傷は癒えないけど、心の傷は癒えてきました。それは、この仕事を通じて皆さんの幸せを願えるようになったからです。自分の喜びは他人から頂けるものだということですね。しかし、自分が幸せにならなければ、他人を幸せにすることが出来ません。人はお互いに影響されながら磨いてゆくものだと思います」

「はい、その通りだと思います。このご縁で先生ともこれから仲良くして戴けたらと思っています。静子さんとも奇しくも同じ年齢なので話が合いそうです。少し心が落ち着いたらまた伺います。その時までに犯人が見つかっていることを祈ります」

「ありがとう。静子も喜ぶと思うよ。奈良県警から連絡が来たら教えるから、待っていてください」

山崎は和田の命が無駄ではなかったと初江を見て強く感じた。