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本年もよろしくお願いします(掌編集~今月のイラスト~)

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「えっ? なんで横書き?」
「おかしいかしら?」
「だって毛筆だろ? 普通縦書きじゃないの?」
「あら、江戸時代だって横書きはあったわよ」
「それはそうかも知れないけど……あ、それに、その頃だと右から左へ書くんじゃないの?」
「だって、郵便番号を右から左へ書いたら、ちゃんと届かないでしょう?」
「確かにね、でも郵便番号だけ左から右へ書けばいいんじゃないの?」
「それじゃ整合性がとれないじゃない」
「そこ?」
「おかしい?」
「おかしくはないけど……」

 ウチの奥様、彩さんは天然だ。
 いや、こだわる所が人とずれているだけなのかも知れないが……。
 そもそも、年賀状は元旦に書くものと決めている。

「だって、年末に『あけましておめでとうございます』って手紙を書くの、おかしくない?」

 そう言う理屈らしい。

「それは確かにその通りかも知れないけど、元旦に届かないだろ?」
「あら、手紙ってそう言うものじゃないの? メールと違ってそのタイムラグが良いのよ」

 まあ、確かにそう言う一面も否定しないが……。

 まあ、古風なところもあることは確か、正月には和服姿も見せてくれるしね。
 だけど普段はスエットの上下やジーンズにTシャツが定番、家の中でスカートなぞ穿いていると『どうしたの?』なんて訊いてしまうほどに。
 その落差が激しいんだ……そういうところにも惹かれたんだけどね。


 彩との出会いは大学四年の時。
 ゼミの先輩で、卒業後に高校教師となった人に頼み込まれたんだ。
「サッカー部の顧問をやることになっちゃってさぁ、週二くらいでいいからさ、コーチに来てくれないか? 俺は小学校の時にやってただけなんだよ、お前は高校でもやってたんだろ? いやいや、隠しても無駄だよ、県大会で良いとこまで行ったって自慢してたじゃないか」
 大学の四年間で東京は水が合わない、やはり郷里が好きなんだってわかったから、早々に郷里の会社に内定を貰っていた、それでヒマなのは見透かされていたから渋々と……もっとも、女子高のサッカー部だと知ってたら喜んで行ってたのに、先輩も妙な所で意地が悪い。

 彩は面白い選手だった。
 やることが奇想天外なんだ、FWとしてはある意味うってつけだったかも知れない。
 一番印象に残ってるのは「ヒップシュート」。
 とにかくしつこいDFにぴったりとマークされて、いい加減うんざりしてたんだろうな。
 本来は彩のヘディングに合わせようとしたコーナーキックが低すぎたのを見て取った彩は、ボールに背を向けて背後にぴったりと密着していたDFに向き直った、一体何事? とあっけに取られるDFを尻目に、腰を振ってお尻でボールを弾いてゴールしたんだ。
 あっけに取られたのはDFやGKだけじゃなくて、審判まで笛を吹くのを忘れそうになったほどさ、ありゃ見事だったね。

 一年後、就職の為にコーチを辞した時、みんなが送別会を開いてくれたんだが、他の選手たちが大抵ジャージ姿だったのに、彩だけは真っ赤なパーティドレス姿だった。
 もっとも、勝手に持ち出したのがバレて、あとで姉さんにこっぴどく怒られたそうだが。

 やることが奇想天外なのは、何もサッカーだけじゃない。
 専門学校を卒業した彩は、地元の東京ではなくて、俺の郷里の会社に就職したんだ。

『だって、近くに居たかったんだもん』

 そこまで言ってもらって悪い気がするはずもないだろう?
 って言うか、俺もずっと会いたかったんだけどね……だって、彩のような娘は他にいないから……。


「これ、書き終わったら、初詣行かない?」
「いいね、その格好で行くんだろ?」
「もちろん、その後は……ボウリングとかは?」
「着物でボウリング? まぁ、フットサルやろうとか言い出さないだけマシだけど、カラオケくらいにしとかないか?」
「あ、いいね、カラオケ、せっかく着物着てるから演歌を歌っちゃお」

 そこは妙に整合性がとれてたりして……。

 今年も振り回されそうだけど、とりあえず、本年もよろしくお願いいたします、奥様。
 
(終)