「月ヶ瀬」 第十八話
「私の捜査がぬるかったんやと反省しています。こんなこと言ってもあかんけど、強く引き留めておけば良かったと無念です。誰がやったんかは解っているから後は二人を逮捕するだけなんやけど、既に近隣の警察には手配書を回してあるんで見つかるのは時間の問題やと思っとります」
「佐藤警部、和田は責任感が強いからたとえあなたに反対されても続けていたと思いますよ。静子さんも初江さんも責任を感じてくれなくてもええですよ。悪いのは犯人なんやから。後は一刻も早く見つけ出してもらえるようにお願いします」
「奥さん、そう言って貰えたら助かりますわ。奈良県警の威信がかかってますから必ず犯人は検挙する。もう一人殺されていると思うから、犯人たちは死刑や・・・」
「もう一人って、誰ですのん?」
「清一の妻由美さんや」
「それってほんまですか?」
「証言してくれている人がいるからほんまです。遺体が見つからへんから確証はないけど、間違いないと踏んでます」
時間が遅かったので四人は佐藤が用意したタクシーで市内のホテルへ向かった。
山崎友和は妻の静子の落胆ぶりに掛ける声が無かった。
それでも共に手を握りながら一つのベッドで朝を迎えると、少しは気分が落ち着いたのか、これまでのことを語り始めた。
「兄はこんなことになるぐらいの証拠を見つけたんやと思います。すぐにあなたか佐藤警部に話してくれたらよかったのにと残念です。警部は犯人を特定していましたけど、証拠はあるのでしょうか?」
「う~ん、姿を消しているからというだけでは証拠にはならないから、別の何かを知っているんだと思うよ。捜査には機密もあるからね」
「仮に久保清一が見つかっても、奥さんが見つけられなかったら自分も被害者面して、ことが面倒になるような気がします。会田は責任を清一に押し付けて自分は何も知らないと言い張ると思うんです。そうなったら、捜査は振出しに戻るし、死人に口なしということになって、うやむやになりそうで怖いんです」
「お前のお言う通りかも知れんな。証拠か・・・たとえ目撃者がいても口止めされていたり、見て見ぬ振りをしているようなことはあの村では考えられるな。今は二人を見つけて尋問するしか方法が無いと思う」
「そうですね。何だか悔しいけど、佐藤警部にお任せするしかないということね」
「ああ、きっと探し出してくれると信じてるよ」
別の部屋では和田の妻と安田初江が同じようなことを話し合っていた。
作品名:「月ヶ瀬」 第十八話 作家名:てっしゅう