1 shot, 1 scene.
夕日と展望台
そこは、展望台。
山の上に、ひっそりとある。そんな展望台だ。
街が見晴らせるこの場所には、ベンチがいくつか並ぶだけで、他には何もない。
そして、人も居ない。
寂れているわけでもないけれど、どこかもの悲しく見える。
ふと、足音。
夕日に染まり、真っ赤に色づけされた砂利道を踏みしめる、音。
登ってきたのは二人。
どちらも、制服を着ていた。
「もぉ、遅いよ?」
「そ、そんな事言われても……。文化部に陸上部の体力を求めないで」
一人は軽やかに。一人は息を切らせて。
二人は言葉少なく、展望台の柵際まで進む。
少しだけかかっていた雲が、夕日の横へ動いた。
世界が、一層赤くなる。
「ねぇ、なんで突然寄ろうって言い出したの?」
未だ体力が戻っていないらしく、やや息切れ気味に彼は尋ねた。
対して彼女は、肘をついて柵にもたれた。
「……さぁ? なんとなく……かな」
彼女の表情は、光で見えない。
「……じゃあ、丁度いいや。僕はね、ずっと言いたかったことがあるんだ」
彼は、柵に背中を向け、体重を預けた。
「僕ね、君のことが――――」
そんな、物語の1シーン――。
作品名:1 shot, 1 scene. 作家名:空言縁