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天国からのプレゼント(掌編集~今月のイラスト~)

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今日はクリスマス・イヴ。
 街にはにぎやかなクリスマス・ソングが流れ、街行く人の足取りも心なしか軽く見える。

 裕美は大学一年生、高校時代はアルバイト禁止だったので、これが初めてのアルバイト。
 サンタクロースをイメージした衣装を身にまとい、ケーキ屋の店先に立っている。

 と、小学校の二、三年生だろうか、小さい女の子が、さっきからショーケースを覗き込んで困ったような顔をしている。s
「あのぅ、切ってあるケーキはないんですか?」
 女の子は意を決したように尋ねて来た。
「ごめんなさい、今日と明日だけは丸いままのケーキしかないの、ごめんなさいね」
 裕美は、ショーケースから身を乗り出すようにしてそう答えた。s
 少しでも目の高さを揃えようと思ったのだ。
 それでもまだ少し身長が足りない少女は、裕美を見上げる。
 酷くガッカリした様子……。
 裕美は申し訳なく思ったが、こればかりは仕方がない。
 少女は肩を落として帰って行った。

「なんだか可哀想だったな……」
 裕美がそう呟くと、隣に立っていたバイト仲間の恵美も低いトーンで呟くように言う。
「あの子ね、家の近所の子なんだけど、お父さんがいないのよ」
「そうなの? どうして?」
「一年前位だったかな、亡くなったの、今はあの子とお母さんと二人暮らし」
「それで、お仕事してるお母さんの代わりにお使いに来たのね?」
「それもどうかな……あんまり丈夫な人じゃなくて、時々寝込んでるみたいだから……」
「……もしかしたら、あの子……自分のお小遣いで?」
「わからないけど、そうかもしれない……お金にも困ってるみたいだし」
「生活保護とかは?」
「そこまで知らないけど、一応お母さんは働いてるから……どうなのかな……」
「泣きぼくろ……」
「え? 何?」
「あの子、右目の下に泣きぼくろがあったの」
「そう? 気付かなかった」
「小さいから近くで見ないと……あたしにもあるの」
「え? あ、ホントだ、裕美は左目の下ね」
「あたしはね、お母さんがいないんだ」
「え? そうなの? 初めて知った」
「五年前に亡くなったの、家の場合はお父さんが元気だからお金には困ってないけど……」
「ちっとも知らなかった……」
「だからかな、なんだか、他人事のような気がしないのよね……」

 二人の会話はそこで途切れてしまった、何しろクリスマス・イヴだ、ケーキ屋にお客さんは絶えない。



「え~? なんで? 恵美も一緒に行こうよ……」

 閉店後、裕美はケーキをひとつ携えて、とあるアパートの前にいた。
 昼間の女の子が住んでいるアパート……案内役を買って出た恵美も一緒だ。
 ケーキは、二人の会話を耳に挟んだ店長がプレゼントしてくれた、そして、二人がサンタの衣装のまま帰宅することも許可してくれたのだ。

 だが、アパートの前まで来ると、恵美は玄関口までは一緒に行かないと言う。

「だってさ、サンタさんが二人いたらおかしいでしょ?」
「でも……」
「いいの、いいの、あたしはあの子にケーキをプレゼントしようなんて思いつかなかったんだから、サンタ役は裕美が良いよ……じゃあ、また明日ね!」
 そう言って駈け出して行ってしまった。



「は~い」
 ドアをノックすると、昼間の女の子が戸口に……。
「あれ? ケーキ屋さんのお姉ちゃん?」
「メリー・クリスマス、これ、プレゼントよ」
「え?……」
「昼間はカットケーキがなくてごめんね」
「このケーキ、くれるの?」
「ええ……サンタさんからのプレゼント、サンタさんの代わりに届けに来たの」
 それを聞いた女の子の目がみるみると潤んで来る。
「……あのね、あたし、知ってるよ……」
「え?」
「サンタさんは本当はいないって……知ってるよ……これ、お姉ちゃんがプレゼントしてくれるんでしょう?」
 少女の目尻から零れ落ちた涙が泣きぼくろを濡らした。

「……本当のこと、言うね……」
 裕美はしゃがみこんで女の子と目線の高さを合わせた。
「ケーキはね、店長さんが持って行って良いって言ってくれたの、このお家がわかったのは近所に住んでるお姉ちゃんが教えてくれたのよ……わかる? あなたは一人じゃないわ、大勢の人が見守ってくれてるの……」
 裕美は女の子の涙をぬぐって、泣きぼくろに触れた。
「泣きぼくろ……ほら、お姉ちゃんにもあるでしょ?」
「……ホントだ……」
「あたしもね、お母さんがいないの、亡くなっちゃったのよ……だから、ケーキが買えなかったあなたがしょんぼりして帰ったのが気になってね……」
 女の子も手を伸ばして、裕美の泣きぼくろに触れた、涙といっしょに……。
「……うん……ありがとう……気にしてくれて」
「さっき言ったばかりでしょ? 沢山の人があなたを見守っているのよ」
「……わかった……」
「もしかしたら、天国であなたのお父さんと、あたしのお母さんが見てたのかもね……」
「……うん……」
 抱きついて来た女の子を、裕美は優しく抱きとめた……。



「ケーキいかがですか?」
 十年後、あのケーキ屋の店先で元気な声を張りあげているのは、あの時の女の子、由美だ。
 その姿を後ろから見守っているのは、十年分歳を取った店長。
「Mサイズをひとつくださいな」
 店先に現れたのは、小さな女の子の手を引く恵美……。
 そして、一足遅れで店先に現れたのは……。
「あら? もしかして、恵美?」
「あっ、裕美?」
「久しぶりねぇ、元気だった?」
「ええ、裕美も元気そうね……あら? 裕美の所は男の子なんだ」
「そう、やんちゃで手を焼くわ、でも、ケーキを食べてる間だけは大人しくてね……あ、店長、お久しぶりです」
「ははは、二人ともすっかり良いお母さんになったねぇ……」
 相好を崩す店長に、由美は笑顔で言った……。
「それはそうですよ、店長、二人とも、とっても優しいもの」
 

 十年前、由美に元気を分けてくれた人たちが偶然にも顔を揃えた。
 それは由美にとって、何よりのクリスマス・プレゼント。
 それはサンタクロースからの贈り物?……それとも天国からの……。

 由美の泣きぼくろは、もうほとんど目立たなくなっている。


 (終)