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ありがとう

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 そして数年後。
 仲間たち…いや、かつての仲間たちは帰ってきた。
 各々が銃器と重機を持って。
 鉱石に目が眩み、それを自分ひとりのものにせんとして。
 かつての仲間は命を救われた恩を忘れ、言葉と文字を与えた対価を主張した。
 青年と村に残った仲間は、幾許かの寂しさと嫌悪感を持ち、恩を忘れたかつての仲間を恥じて、村を守ることを選んだ。
 そして、今では言葉と文字を正しく使うことを覚え、言葉と文字の生む過ちや諍いを払拭する、悟りの美徳を取り戻した村人を残し、かつての仲間を一掃した後には、争いを生むきっかけとなった自分たちも村を立ち去る決意をしていた。
 兵士たる記憶がそうさせる。
 彼我の戦力差は絶対であった。
 それでも、死してなお、村を守るだけの意志と価値があることを、青年たちは『悟る』ようになっていた。

 何も知らない村人たちに決意を告げることも無く、ひっそりと村と発とうと住まいを出たとき、そこには青年が少年だった頃、初めて手を重ねてくれた子供、今では立派な青年になったあの子をはじめとした、村人たちが待っていた。
『ありがとう旅人たち。僕の友達よ。貴方達がどこに行き、何をするのかは最早訊ねるまい。我らは“悟りの民”なのだから。ただ、この美しきものと美しきことを伝える術をくれた大切な友達に、僕らも僅かながらも報いたいのだ』
 村人たちは青年と仲間たちに、いつの間にか集めた沢山の鉱石を渡すと、
『これが貴方方にとって価値のあるものであるのなら、ここを出て後に役立ててほしい。僕の友達よ、ここを去る貴方達に僕らは他に報いる術がここには無いが、いつどこに居ても僕らは友達だ。旅人よ、僕の友達よ。貴方達が私たちを“悟りの民”と呼ぶ証のように、貴方達の手を取ったときに私たちは“悟った”のだ。貴方達は悲しい運命を背負ってはいるが、強く、信頼するに足るものだと。いつかまた、どこかで会えることを楽しみにしているよ。それが千年先でも、僕らは貴方達のことを忘れないだろう』
 青年たちは鉱石を受け取ると、手に入れた悟りの力を見せるように涙を流しながら微笑み、そして頭を下げて旅立った。
 青年たちが旅立って暫くすると、村人たちの耳に様々な悲しい音が飛び込んできたが、村人たちは青年たちと同じように涙を流しながら微笑み、音が止むまでひたすら神に祈った。
 そして長い長い時間が過ぎた後、一切の音は消え去り、村人たちは手に入れた言葉と文字と悟りの力を正しく使いながら、長い長い時を過ごした。
 青年たちも、そのかつての仲間も、その後村を訪れることは無かった。
 村人たちは今でも、友達が訪ねてくる時のために、暇を見つけては鉱石を少しずつ貯めているという。
作品名:ありがとう 作家名:辻原貴之