「月ヶ瀬」 第十一話
「さあ~知らんわ」
三津夫は康代がいつもここの二階で学校から帰って来た初江と誠治を遊ばせていたと話した。そして時々久保清一が飲みに来ていたことも付け加えた。
「三津夫さん、清一さんはここの店の持ち主やな。その清一さんと康代さんは普通の持ち主と従業員と言う関係だけとは違うと思わへんか?」
「どういうことですか?」
「急に店がでけて、康代さんが働きだしたんや。それも地元の女性じゃない人や。旦那さんもおる。金出して店作ってやらせる意味ってなんやと思う?」
「正直に言うと康代さんと清一さんはでけてたって噂やった。二階で遊んでる二人におもちゃとか買ってきて、あげてたところも見ました。康代さんの旦那さんは店には来なかったみたいやけど、そういう雰囲気には気付いてはったと思います」
「康代さんのご主人は何してたんや、知ってるか?」
「きっと康代さんのお給料で食べさせてもらってたみたいです」
「それやったら、文句も言いにくいな。初江さんのことで知ってる人思い出したら教えてんか。これ名刺や。忘れたらあかんで」
佐藤はそう言い残して署に戻った。
依然和田の行方は分からないまま一週間が過ぎた。
東京の山崎友和も妻の静子も気がかりでじっとしてられなくなっていた。
毎日電話を実家へ掛けて連絡が無かったか聞いていた静子は、我慢の限界にきて京都へ行きたいと夫に話した。
「あなた、兄はどうしていると思いますか?もう一週間ですよ。心配で夜も眠れません。京都へ行かせてください」
「気持ちはわかるよ。おれも責任あるしな。すぐにでも行ってあげなさい。奥様だってその方が心強いだろう」
静子が京都の実家へ向かったそのあとすぐに山崎に電話が掛かってきた。
「安田です。さっき奈良県警の佐藤さんと言う人から電話があって、和田さんが行方不明になっていると伺いました。本当なのでしょうか?心配でお電話差し上げました」
「初江さん、ありがとうございます。連絡が取れてないことは事実です。まだ分からない状況ですのでこちらから改めてご連絡差し上げます」
「あのう・・一つ話しておかないといけないことがありまして。これからお伺いしてもよろしいでしょうか?私一人で行きます」
「そうですか、私は構いませんからよろしかったらお出掛けなさってください」
安田初江は心配顔で事務所に入って来た。
作品名:「月ヶ瀬」 第十一話 作家名:てっしゅう