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赤鼻のトナカイはこれからも……(掌編集~今月のイラスト

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「もう目を開けても良いよ」
「うん……おお!」
「……あんまり見つめないでね、恥ずかしいから……」
 そう言って由紀はソファに脚を隠してしまう、すらりと伸びた美しい脚を。
「……この衣装、憶えてる?」
「憶えてるに決まってるだろ? そもそも俺がビンゴの景品に選んで買って来たんだし」
「うん……そうだったね」
「それで、由紀がそれに気替えた時のこともね」

 二年前、高校の同窓会を兼ねたクリスマスパーティで俺が思いついた『逆ビンゴ』。
 そのビリの景品がこのミニスカサンタの衣装と、赤鼻のトナカイの着ぐるみだった。
 男女それぞれのビリになった二人はそれを着て一曲踊らなければならず、パーティが終わるまでそれを着ていないといけないと言うルール、だから『逆ビンゴ』なんだ。
 
 由紀は素晴らしくスレンダーなプロポーションとパッチリと大きな瞳が印象的で、女性陣はそれを羨み、男共は胸躍らせるのだが、本人は至って内気で引っ込み思案、スレンダーなプロポーションは『ガリガリ』、パッチリと大きな瞳は『ギョロ目』だと思い込んでいた。
 そんな性格を知っているから、由紀が女性陣のビリになりそうになった時、俺はわざと自分のビンゴカードの窓を開けずにビリになった。
 そして、ルールはルールだから由紀にも一緒に一曲踊ってもらったけど、曲が終わるとすぐにコートを着せ掛けたんだ……ルール違反じゃないかって非難されたけど、衣装の上にコートを着ていちゃいけないなんてルールは決めてなかったからね。
 正直言うと、俺も由紀のミニスカサンタ姿には目を奪われていたんだけど、人一倍シャイな娘にそんな事を強要したら可哀想だろう? それに、俺は由紀が困惑する顔を見て居たくなかったんだ、挙句に泣かれちゃったりなんかしたら『逆ビンゴ』を思いついた自分を呪いたくなっちまう……なにしろ、高校時代からずっと由紀が好きだったからね。
 
 そのパーティの後、仲を取り持ってくれた娘がいて、俺は念願かなって由紀と交際できるようになった、そしてもちろん今も続いている、って言うか、会えば会うほど由紀を好きになっちゃうんだ、参ったね……別に参ることもないかw
 
 で、今年もクリスマスパーティはあるんだけど、その前に二人っきりでクリスマスを祝おう、ってことになった。
 俺が『ちょっとしたサプライズも用意しているから』と言うと、由紀も『私も……』て言ってくれた……そのサプライズがこのミニスカサンタ姿なんだ。

「綺麗だよ、由紀、最高のプレゼントだ」
「ガリガリで魅力ないでしょう?」
「そんなことあるもんか、由紀はスタイル抜群だよ、自分でわかってないだけさ、もっとも、そんなところも好きなんだけどね」
「もうコート着てもいい?」
「だ~め、こっちのサプライズが終わってから」
「達っちゃんのサプライズって、なぁに?」
「これだよ」
「わぁ、クリスマスリースね、達っちゃんが作ったの?」
「ま~ね」
「素敵ね」

 本当の所、俺も中学までは引っ込み思案だった、でも高校へ上がると今までの同級生と顔ぶれがガラリと変わる、それをきっかけにして、お調子者を演じることでそれを直そうと思ったんだ、もっとも、今じゃすっかりそれが地になっていて、人を笑顔にすることが楽しくて仕方がない、バルーンアートをやり始めたのもそんな理由からさ……そう、クリスマスリースはバルーンで作ったものなんだ。
 由紀はいつも俺のバルーンアートを喜んでくれる、今日のリースも気に入ってもらえたみたいだ……でも、本当のサプライズにはまだ気がついていないみたい。

「あら? 何かしら……ベルの玉の所から音がする……何か入ってるの?」
「まあね、その玉を割ってみて」
「せっかく作ってくれたのに?」
「そんなのすぐに直せるからさ」
「うん、じゃぁ……あ……」
「ペンダント……気に入ってもらえた?」
「ええ……とっても、だってこれ……」
「由紀とこうして付き合えるようになったきっかけがそれだったからさ……これからも俺はずっと由紀の灯りになって、ずっと引っ張って行きたいな」
「うん……ありがとう……大切にする」

 ベルの玉に俺が仕込んだもの……それはトナカイがそりを引く姿を象ったもの、そして、トナカイの鼻にはけし粒みたいに小さいけど真っ赤なルビーが埋め込んである。
 二年前のあのパーティは俺にとっても忘れられない想い出だからね……。

(終)