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赤鼻のトナカイ(掌編集~今月のイラスト~)

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ひと月前、六年ぶりに高校の同窓会があった
 飄々とした物腰ととぼけたユーモアで皆に愛された担任の先生が退役すると言うので開かれた同窓会、先生の人柄のおかげか、出席率はかなり良かった。
 高校時代も先生の下でまとまりの良かったクラスのこと、当時クラスのムードメーカーだった達彦が『クリスマスパーティやろうぜ!』とぶち上げると『我も我も』と大勢の手が挙がった。

 そして迎えた12月、小さなスナックを借り切った早めのクリスマスパーティは、思い切り盛り上がっていた。
 達彦の仕切りは完璧、手を変え品を変えて皆を笑わせ、まったく飽きさせない。

「お~し! 次はビンゴやるぞ、ビンゴ!」
「おう! でも、ビンゴって達彦にしちゃありきたりだな」
「見くびってもらっちゃ困る、ちゃんと趣向はあるぜ」
「さすが! どんな趣向なんだ?」
「え~、景品は全員に用意してあります、そして目玉はこれだ!」
 達彦が広げて見せたのはトナカイの角を模したカチューシャと赤鼻。
「何を隠そう、これはビリの賞品だ!」
「おお! なるほど、それがビリってことは、パーティの間中それをつけてなきゃいけないんだな?」
「その通り! だけどこれは男子用、女子用は……これだ!」

『おお!』とか『きゃ~!』とか歓声が上がる。

 達彦が広げて見せたのはミニスカサンタの衣装。
「なるほど! ビリの女子はずっとそれを着てなくちゃいけないんだな?」
「その通り! そして『赤鼻のトナカイ』に合わせてペアで踊ってもらう!」

『うそ~!』、『マジでぇ?』、『ありえな~い』と声が上がるが決して本心から嫌そうではない。

「行くぞ! 真ん中のフリーを開けて! 最初の玉は……25!」

 ビンゴゲームは随分盛り上がった、はっきり言って賞品は大したことはないのだが、『勝ち抜けること』に盛り上がったのだ、そして賞品が少なくなるほどに盛り上がりは最高潮へ。

「ビンゴ! やった! やった!」
 残り二人になった女子の一人が躍り上がると、最後に残った女子がこころなしか青ざめた。

 最後まで残ったのは由紀。
 高校時代、クラスで一番目立たなかった娘だ、いや、目立たなかったと言うのとは少し違う、大人しく引っ込み思案で目立つことを避けていた娘なのだ。
 実際の所、ほっそりしたプロポーションと顔の輪郭、パッチリと大きな瞳は男子の目を惹いていた、しかし、本人の自己評価は『ガリガリのギョロ目』。
 多くの女子がスカートをギリギリまで短くしていた中にあって膝丈のスカートを穿き、両手でカバンを提げて伏し目がちに佇む姿に『キュン』とさせられていた男子は多かった。
 加えて、夏場の体育の授業ですら、『ガリガリ』を気にしてジャージを着込んでいた由紀のスレンダーボディはどのようなものなのだろうか、と妄想を膨らませた手合いも決して少なくはない。

 そして先日の同窓会で、男供は目を見張った。
 高校時代はお下げで通していた髪には緩くウェーブがかかり、化粧っ気が全くなかった顔にはナチュラルメイク、少し大人になった由紀は更に魅力的になっていたのだ。
 そして、その由紀のミニスカサンタ姿を拝めると来れば、それはもう……。

 とは言え、由紀が引っ込み思案なのは皆が知っている、少し青ざめた顔を見れば囃し立てる訳にも行かず、ちょっと微妙な空気が流れたが、由紀は潔く衣装を手にとって更衣室代わりのトイレへと消えた。

「どうしよう……やっぱり恥ずかしい……でも、みんなが楽しくしてるのに水をさすのも悪いし……」
 由紀がトイレで衣装を手に迷っていると、『赤鼻のトナカイ』が流れて大きな笑い声が聞こえて来る。

「思い切って着るしかないか……」
 由紀はそう心に決めて衣装のビニール包装を破いた。


「可愛い!!」
「いいじゃん、いいじゃん」

 由紀がパーティに戻った時、浴びせられたのは賞賛だった、もし下品に囃し立てられてたらトイレに逃げ込む所だったが、由紀は顔を赤らめながらも何とか踏みとどまった。
 そして、振り付けカラオケのモニター画面の前では、トナカイに扮した達彦が踊りまくっている。

「さあさあ、踊って踊って!」
 皆が囃し立てる。

 ゲームのルールだ、踊らないわけには行かない、普段からダンスには親しんでいないし、恥ずかしさもあって小さく手振りを真似るくらいしか出来なかったが、その分、達彦が大げさに踊ってカバーしてくれた。

 そして……。
『こよいこそは~と~よろこびま~し~た~~~チャチャチャ』
 曲が終わると達彦はさっとコート掛けから由紀のコートを取ると、大きな瞳を更に丸くしている由紀にそっと着せ掛けた。

「あ~! 何だよ達彦、せっかくのミニスカサンタを隠しちゃうのかよ」
「確かパーティが終わるまでその格好してなきゃいけないんじゃなかったか?」

 男性陣からのブーイングに、達彦が切り返す。
「コートを着ちゃいけないなんて言ってな~い!」
「え~? 聴いてないぜ!」
「フザけんなよ~!」
「エエかっこしいかよ!」
 ブーイングは続いたが、誰一人として本気で不平を言っているようには聞こえない。

 それもそのはず、達彦は知らなかったのだ。
 もちろん由紀も。
 自分が踊っている最中、ビンゴの手伝いをした女子が、開くべき番号が閉じたままの達彦のカードを背後でさりげなく皆に示していたのを。