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てっしゅう
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「月ヶ瀬」 第五話

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車を置いて、そこから辺りの様子を伺っていた和田に声をかけた人物がいた。

「ここは観光するところなんかあらへんのに、何しに来やはったん?」

「おはようございます。ちょっと調べたい一件がありまして。弁護士の和田言います、お名前良かったら聞かせてもらえませんか?」

「わしか?そこのあばら家に住んどる会田や。弁護士さんか・・・事件なんかあらへんと思うけど、駐在所は役場の前やから下の道を降りて行って、二股を右に行くと道沿いにあるわ。わしには分からへんさかいに行ったらええわ」

「ご親切にありがとうございます。今日は奈良県警に行かなあきませんよって駐在にはまたにしますわ。会田さんはここに長くお住まいですか?」

「そうか、わしか?せやな・・・生まれも育ちもここやで。70年になるわ」

「地元の人やったら何でも村のことは知ってはるんとちゃいますか?」

「何でもと言われてもなあ・・・何が聞きたいねん?」

「半年ほど前にボクの友人がここを訪れて調べごとしてたんやけど、車にはねられて大怪我をして、仕事が出来なくなったんです。警察はひき逃げした犯人を結局見つけられなかったんで、泣き寝入りということになってしもうたんですわ。聞いたことありませんか?」

「半年前か・・・知らんな。交通事故なんて滅多に起こらへんから、大きな事故やったら村のもんはみんな知っているけどな。気の毒やったけど、他所もんの車にはねられたんとちゃうか」

「後ろからやったさかいにハッキリと見たわけじゃないんやけど、地元の人が乗るような軽トラックやったと言ってました。川向こうの御嵩町(みたけちょう)は旧家が多いところでしょう?こんなこと言ったら嫌われるけど、暗黙の了解で誰も喋れへんのとちゃいますか?」

「弁護士先生、もし地元の誰かが車でよそから来た観光客を怪我させて黙ってたら、いま開発が進んでいる川向こうにある梅林を整備して、温泉を作る事業に支障きたすやろ。そんなこと村長が許せんから考えられへんわ」

「この辺は茶畑が収入のほとんどですよね?新しくリゾート計画が村にはあるんやね。観光地として売り出すのに、そういう不名誉なことが表に出たら補助金とかの面で不利になるということやね」

「そうや。県から役人が調査に来てるし、村長がいろんなところに月ヶ瀬をアピールしてるよって、万が一にも村民がひき逃げを隠匿してたなんて聞こえたら元も子もなくなりよるで、せやろ?」

「会田さんの言われる通りやとおもいます。これから県警に行って、またすぐにでも駐在を訪ねて聞いてみようかと思うています。今日はお忙しいところ声掛けて頂きありがとうございました」
作品名:「月ヶ瀬」 第五話 作家名:てっしゅう