「月ヶ瀬」 第四話
「弱みか・・・せやな、夫がいる身で、親のような年齢の男から言い寄られて、自分からすすんでということは考えられへんな。生活に困っていたということは事実やけど、初江さんも仕事してたし、誠治も働いてたし、妹二人も中学卒業して家から出てたしな。可能性があるとしたら、レイプやな」
「ええ?母親が強姦されたって考えているのですか?もしそのことを誠治が教えられたとしたら、憎い村長の孫を同じ目に遭わせてやろうと考えても不自然じゃないですね?」
「せやから言うて、罪が軽くなることはあらへん。それに13歳と言う年齢を考えたら、誠治の行為は情状酌量の余地はないな。誠治には他に何か理由があったかも知れへんで。一応帰ったら奈良県警に出向いてその辺のこと調書見せてもらうことにするわ。ヒントが見えるかもしれへんからな」
「わかるといいですね。期待しています。くれぐれも月ヶ瀬に居る時は注意してください」
「ありがとう。心配することなんかないやろ」
静子は東京駅まで見送りに着いて行った。
「兄さん、気をつけて。何かあったら連絡して。私は動けるようにしているから」
「心配するな。友和君に無理せんように言わなあかんで。時々進行状況を電話するからな。もうここでええわ、家に帰り」
「うん、じゃあ、お義姉さんによろしく」
新幹線が京都駅に着いたとき、日は落ち辺りは薄暗くなっていた。
明日はまず月ヶ瀬に行って、友和の事故を調べた警官に会ってみようと和田は考えていた。
「弁護士の和田保と言います。捜査一課長の佐藤警部おられますか?」
和田は奈良県警に勤務している大学時代の同期に電話を掛けた。
「佐藤警部は外出中ですが、午後には戻ることになっています。ご伝言でしたら承っておきますが、いかがしましょう?」
「では、和田がそちらへ午後三時に伺うので、お話がしたいとご伝言してください」
「あのう、お約束は出来ませんが、よろしいのでしょうか?」
「構いません。ついでがあるものですから、会えなければまたにします」
電話を切って、自宅からまず月ヶ瀬村へ和田は向かった。
現地の様子を県警に行く前に見ておきたいと思ったのだ。京都から宇治を抜けて、国道163号線に出ると、笠置を過ぎて間もなくJR月ヶ瀬口駅が右手に見えてくる。
ガード下をくぐって右手に少し登ると、駅の前に出る。
車を置いて、そこから辺りの様子を伺っていた和田に声をかけた人物がいた。