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友人の話

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 古くからの友人を乗せて車を運転していた最中に、後続車に煽られたことがあります。
 運転をしていたのはやくざやチンピラというよりは、いわゆるいきがっている若者といった風情の男で、助手席にちょっとした美女を乗せていましたので、彼女にいいところを見せたいばかりに強気に出たかったのでしょう。
 私は同性ですから腹が立つばかりでしたが、もしも自分が女性であればどれだけ恐ろしく思ったかと、そういった意味でも非常に怒りを感じました。
 ですから車を止めさせられ、後続車から男が出て来たとき、柄にもなく文句のひとつも言ってやろうかと窓を開けたのですが、私が口を開くよりも友人が、やあ、と驚いた声を発した方が早かった。
「やあ、君はずいぶん性質の悪い呪いを背負っているね」
 まさかそんなことを言い出すとは思いませんでしたから、私は思わずぽかんと助手席の友人を見てしまいました。
「はあ?」
 出て来た男も同様に、怪訝そうな顔をしております。
「周りを巻き込んで破滅する呪いで、しかもここまで強いものなんて、久しぶりに見たよ。心当たりはないのかい? ないのなら、外から巻き込むタイプなのかもしれないね。ああ、助手席の君、君にはあるのかもしれないな。最近何か不幸にあいはしてないかい? 今はまだ軽いかもしれないが、大きくなるから気をつけて」
 助手席の言葉に女性の方を見ましたら、彼女の顔はこわばっているようでした。
「てめぇ、いい加減なこといってんじゃねぇぞ!」
 男の顔にははっきりと怒りが浮かんでおりました。窓から腕を入れ、友人の胸倉をつかみます。
 暴行されてはたまらないと私はとっさに携帯へと手を伸ばしました。けれども友人の態度は飄々としたものです。
「お、濃くなったな。怒鳴ったり暴力を振るったりするごとに強くなるのか」
「おいおっさん、その口閉じねぇとただじゃすまさねぇぞ」
 こぶしをちらつかせる男の脅しなど気にも留めません。
「はは、すごいな、一層くっきりした。そっちの彼女、今のままだと君も巻き沿いを食うよ、僕だったら相手が親友でも逃げるなあ。勿論彼と二人で不幸になりたいというなら止めないけれど」
「黙れ!」
「やめて!」
 顔色が悪くなったのは女性の方でした。殴ろうとした男を悲鳴のような声で制止します。
「ねぇ、時間もないし、そんな人にかまってないで、早く行きましょう」
 早く、と繰り返されてしまえば、男もこれ以上暴力を優先する訳にはいかなかったようです。友人を突き放すように手を離すと、舌打ちしながら車へと戻っていきます。
「呪いなんかあるわけねぇだろ!」
 いらだたしげなその一言が、彼の捨て台詞でした。
 私は立ち去る車を見ながら、友人と自分の無事を実感し、ようやく息を吐きました。
 これが、半年ほど前の話です。
 ああ、前置きが長くてすみません。本題はここからなのです。
 この男に、つい先日会ったのですよ。
 やはり私の隣には、古い付き合いの、その友人がおりました。
 男は顔色が悪く、隈も濃く、髭も伸び放題で、以前とは見違えるほどみすぼらしい格好で、怯えるように辺りを見回しながら背を丸めて歩いておりましたが、友人に気づくと、ひっと悲鳴を上げて逃げ出したのです。
「何だったんだ、あれ……」
 呆然とつぶやく私の横で、友人はくくっとおかしそうに笑いました。
「呪いさ。あのとき言ったろう?」
「まさかそんな、非科学的な……」
「勿論、僕の言った呪いはブラフだ。出鱈目だよ。彼も否定していただろう?」
 ぎこちなくうなずく私に、友人はにんまりと三日月のように顔をゆがめました。
「でもね、彼女は信じた。信じて、周囲に起きた不幸は彼のせいだと思い込んだ。そして彼の不幸に巻き込まれるの恐れて彼との付き合いを絶った。彼女の友人にも忠告したかもしれないね。そうして彼の傍からは人が激減した。彼のような若者にとって孤独はさぞおそろしいだろうな。彼は離れる人を引き止めたくて今までならしなかった無茶をしたんじゃないか? 借金をして奢ったかもしれないし、連帯保証人になったのかもしれない。そうして身を持ち崩して、今だ。
 ───呪いの完成だよ」
 こんなに早いなら、彼ももしかしたら、ちょっとは信じていたのかもしれないね。そう続けた友人に私は言葉を失って黙りこくりました。
 友人はそんな私を気にもせず、でもね、とさらに続けました。
「でもね、君。君も気をつけなよ。今回は僕のブラフだが、僕は本物の呪いがないとは、言わないよ」
「え!?」
「勿論君は僕の友人だから、僕の力が及ぶものなら助けることもやぶさかではないけれどね、自分で気をつけるのが一番早いからね」
「どうやって」
 声が震えた私をちらりと見て、友人はただ、他人に対して悪いことはしない、悪い言葉は言わないことさ、と肩をすくめたきり、あっさりと別の話へと流したのでした。
 ああ、本当に長くなりましたね、申し訳ない。
 これで私の話は終わりです。あなたもどうかお気をつけて。
作品名:友人の話 作家名:睦月真