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彼女のいる光景(掌編集~今月のイラスト~)

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 彼女と知り合ったのは近所の道端でだった。
 僕が愛犬『ガングー』の散歩をしていると、同じコッカー・スパニエルを連れていた彼女とバッタリ会ったというわけ。
 そしてすぐに親しくなれたのはガングーと彼女の愛犬『ミシェル』がすぐに意気投合して出会うたびに長い挨拶を交わすようになったから、その意味でガングーには感謝しなくちゃね。
 近所の犬仲間とはとっくに顔見知りだったが、彼女は引っ越して来たばかり、最近は小型犬ならOKのマンションも増えてきてるから。
 
 初めて会った時から彼女には惹かれたよ、何しろ快活で明るくて爽やか、それでいてしっとりとした女性らしさも兼ね備えた美人だからね。

 彼女との仲が急速に縮まったのは去年の冬の事だった。
 しばらく朝の散歩の時も彼女に会えなくて『どうしたんだろう?』と心配していると、十日目くらいにぽつんと立っている彼女を見つけたんだ、ミシェルを連れていない彼女を。
 彼女は僕を見つけるなり駆け寄ってきてぽろぽろと涙をこぼした、そして怪訝そうな顔で彼女を見上げるガングーの首に抱きついて声を上げて泣き始めたんだ。
 すぐに察したさ、ミシェルが亡くなったんだ……、まだそんな歳じゃなかったのに……僕はなんと言って声をかけて良いかわからず、黙って彼女の肩を抱き寄せたよ。

 ミシェルの事は可哀想だったけど、その時、僕は彼女に完全に参っちまった。
 いつも明るく快活だった彼女の涙と悲しげな表情……それに心を鷲づかみにされちまったのさ、そういうことってあるだろう?

 それからと言うもの、彼女は僕の部屋にちょくちょくやって来るようになった。
『ガングー、元気?』と言ってやって来るんだけどさ、彼女の目的はガングーに会うためだけじゃないって思った、自惚れかなぁ……でもガングーに会うためだけだったら何時間も過ごして行かないだろう?


 夕べはハロウィンパーティだった。
 黒いワンピースに魔女の帽子を被り、ほうきを担いだ彼女は一躍人気者だったよ。
 なにしろパーティに女性を同伴するのは初めてだったから、僕もさんざん冷やかされた。
 そのパーティで僕は少し飲みすぎちまった……理由は後で教えるよ。
 で、今朝、ガングーがしきりに朝の散歩を催促してくるんだが、中々起きられないでいると、チャイムが鳴った。
「夕べ飲みすぎたでしょう? 大丈夫? ガングーは私が散歩してきてあげるからゆっくり寝てて」
 願ってもない申し出、俺は彼女に感謝しながらもまた深く寝入ってしまった。

 で、ようやく起き出してみると、この光景だ。
 彼女とガングーは背中合わせになって似たようなポーズで眠っている。
 彼女はそんなには飲んでいなかったけど、夜遅かったのは確かだ、まだ寝不足だったんだろう。
 僕は夕べ着ていたドラキュラのマントのポケットを探って小箱を取り出した。
 そう、これが飲みすぎた理由さ。
 中身は指輪、パーティを二人でそっと抜け出してプロポーズしようと思っていたんだ、映画のワンシーンみたいだろう? 一生に一度のことだからね、ドラマチックにキメたかったんだよ、ところが仲間が彼女を中々解放してくれずに、僕は彼女とパーティを抜け出すチャンスをヤキモキしながらずっと伺っていたんでつい飲みすぎちゃったというわけさ。

 彼女とガングーが仲良く眠っている光景……今はまだ借り物みたいな光景だけど、僕はこの光景を自分のものにしたい、いつでも、何度でもこの光景を見ていたい……。

 そう願いながら、僕は彼女の左手にそっと指輪の小箱を握らせて毛布をかけてやった。
 目が醒めて指輪に気付いた時、彼女がイエスと言ってくれると良いんだけど……きっとガングーもそれを望んでいると思うよ。