新連載!「月ヶ瀬」 第一話
これから始まる物語は実際に起こったある事件を参考にして描いています。すべての登場人物と因果関係は創作になっています。
平成15年9月4日、奈良市月ヶ瀬を訪れていた弁護士山崎友和(やまざきともかず)は後ろから来た軽トラックにはねられ、重傷を負った。
偶然観光に来ていた人の通報で駆け付けた救急車で上野市まで搬送され、治療を受けたが脊椎の損傷で下半身がマヒする重い後遺症が残った。
病室には妻の静子が付き添っていた。
警察の事情聴収が行われていたが、弁護士としてその接見に疑問を強く抱いていた。
そもそも、何故月ヶ瀬に来て歩いていたんだ、という質問が事故に遭った自分としては納得が行かない。
痛みをこらえて重い口を開く。
「自分は道路の右側をゆっくりと歩いていました。写真を撮るために立ち止まったりして、車の通行には注意をしていたつもりです。橋を渡って御嵩(みたけ)地区に通じる脇道を歩いていて、後ろからはねられたんです。白の軽トラックはそのままスピードを上げて走り去ってゆきました。どう見ても地元の車だと思うので調べてください。こんな小さな村だから、すぐに解るのではないですか?」
月ヶ瀬派出所の巡査がそれに答える。
「山崎さんは月ヶ瀬にどうやって来られたのかな?」
「東京から新幹線で名古屋まで来て、そこからは関西線で月ヶ瀬駅まで来ました」
「ほな、駅から歩いて村を散策していたというんやね?」
「そうなります。正しくは散策ではなく調査ですが」
「調査?何を調べていたというんですか?」
「私は依頼を受けた弁護士です。それには守秘義務がありますので、お答えできません」
「そういうことですか、まあええでしょう。この村では交通事故は稀です。せやから本来は交通課が担当するんですが、おれへんので駐在勤務の私がお話しを聞いて、奈良県警に報告書を出します。ひき逃げということで調べますが、村の者たちは口が堅いから、一軒一軒回っても見つからへん可能性が高いということだけは、かんにんしてください。ではこれで。山崎さんの入院費用に関する保険請求をされたければ、奈良県警の交通課までお願いします」
平成15年9月4日、奈良市月ヶ瀬を訪れていた弁護士山崎友和(やまざきともかず)は後ろから来た軽トラックにはねられ、重傷を負った。
偶然観光に来ていた人の通報で駆け付けた救急車で上野市まで搬送され、治療を受けたが脊椎の損傷で下半身がマヒする重い後遺症が残った。
病室には妻の静子が付き添っていた。
警察の事情聴収が行われていたが、弁護士としてその接見に疑問を強く抱いていた。
そもそも、何故月ヶ瀬に来て歩いていたんだ、という質問が事故に遭った自分としては納得が行かない。
痛みをこらえて重い口を開く。
「自分は道路の右側をゆっくりと歩いていました。写真を撮るために立ち止まったりして、車の通行には注意をしていたつもりです。橋を渡って御嵩(みたけ)地区に通じる脇道を歩いていて、後ろからはねられたんです。白の軽トラックはそのままスピードを上げて走り去ってゆきました。どう見ても地元の車だと思うので調べてください。こんな小さな村だから、すぐに解るのではないですか?」
月ヶ瀬派出所の巡査がそれに答える。
「山崎さんは月ヶ瀬にどうやって来られたのかな?」
「東京から新幹線で名古屋まで来て、そこからは関西線で月ヶ瀬駅まで来ました」
「ほな、駅から歩いて村を散策していたというんやね?」
「そうなります。正しくは散策ではなく調査ですが」
「調査?何を調べていたというんですか?」
「私は依頼を受けた弁護士です。それには守秘義務がありますので、お答えできません」
「そういうことですか、まあええでしょう。この村では交通事故は稀です。せやから本来は交通課が担当するんですが、おれへんので駐在勤務の私がお話しを聞いて、奈良県警に報告書を出します。ひき逃げということで調べますが、村の者たちは口が堅いから、一軒一軒回っても見つからへん可能性が高いということだけは、かんにんしてください。ではこれで。山崎さんの入院費用に関する保険請求をされたければ、奈良県警の交通課までお願いします」
作品名:新連載!「月ヶ瀬」 第一話 作家名:てっしゅう