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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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落ち葉掃き

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植木市で桜の苗木を買ったのは、桜の花が好きだったこともあったが、多少の見栄も有ったのかも知れなかった。その証拠に、道路から見える場所に植えたのだった。20年経った今は、幹は20センチを超えた太さになり、高さは2階の屋根まで伸びていた。
 花の咲いた時は、さすがに桜である、見知らぬ人でさえ顔を合わせれば
「家でサクラが観られるって幸せでしょう」
等と言ってくれたりする。その言葉に、優越感の様な感情が湧いた時も有った。
 自分の家の周りは公営の団地が並んでいる。1戸建ての家は、自分もそうであったように、そこに住む人たちには夢である。
 花が散り始めると、妻が嘆く、それは、道路に落ちた花びらの掃除をしなければならないからだ。妻も仕事をしていたから、朝掃除をするだけであった。花の時期はそれで苦情の来ることは無かったが、11月頃になると、落ち葉が風に飛ばされる。団地の方に飛んでいく分には苦情は来ないのだが、道を隔てた隣の家には塀が無く、舞い込んで行くのだ。苦情は柔らかな言葉であった。
「今の時期は来客が多くて、お茶菓子も馬鹿にならないのよ」
 妻は最初に聞いた時は、言葉を鵜呑みにしたらしい。すると
「お宅はいいわよね。来客が無いようで、お掃除もしなくて済むでしょう」
 翌日、妻は菓子折を持って、落ち葉のことを詫びた。
 それから、桜は切ってしまおうとも考えたが、花の美しさには、決断できなかった。それからは、自分が落ち葉掃除の役目を引き受けた。朝昼夕と3回掃除した。昼は食事前に車で行き、わずか5分ほどの掃除であったが、車の中でパンを食べるのであった。
 今は時間が自由に使え、妻も専業主婦となり、落ち葉掃除も楽しみの一つになっていた。自分も時々掃除をするが、落ち葉の1枚1枚を手に取ってみると、美しいと感じるようになった。今までそんな気持ちになったことは1度も無かった。
 サクラの落ち葉は表は赤黒く紅葉し、裏は鹿沼土の様な黄土色なのだが、そのコントラストが気に行った。驚くほどの美しさではないが、そのことに気付いたことの歓びかもしれなかった。そして、そのことに気付いた自分は、妻に対しても、多くの見過ごしてしまっていることが有る・・・・そんな事を考えていた。










作品名:落ち葉掃き 作家名:吉葉ひろし