呼吸
【著】山田直人
○男
○女
非常階段に女が立っている。手に持つ紙袋には、様々な種類のストローが入っている。
☆男イリ、手にはアルミ缶を持っている。
男 非常階段は、緊急時以外使わないでください。
女 おや?
男 こんにちは。
女 こんにちは。
男 立ち入り禁止だよ、ここ。
女 緊急時なので大丈夫なのです。
男 あら、そうなの?
女 空から水玉模様が降りてきて、水玉溜まりに街が沈んでしまうので。
男 水没都市になるのか。
女 道路もビルも電線も、セクハラ部長も優しい貴方も、頭の足りない後輩も、総て等しく平等に、溺れて沈んで死んじゃって、水玉模様に還ればいいのに。
男 僕もか、困ったな。
女 不平等は、悪なので。
男 君はどうなるのさ。
女 緊急避難。
男 非常階段か。
女 特権特権。
☆女、紙袋からストローを取り出し、一つ咥えて空を見上げる。息を吸う。
女 スー、スー、スー…。
男 あ。
女 息ができるのは最高だなあ。
男 …。
女 あげません。
男 はーん。
☆男、女に飲み物をわたす。
男 はい。
女 これは?
男 三ツ矢さんのサイダーさん。
女 懐柔しようとしたって駄目ですよ。
男 なるほど。
女 しかし、こいつはぺろりと飲んじゃってくれてやります。
☆女、ぷしゅりとサイダーをあけて飲みほす。
女 げふっ。
男 ふふ。
女 失礼。
男 こちらこそ。
女 しばしお待ちを。
男 …。
☆女、カラになったアルミ缶にぶつぶつと呟く。
男 …いったい何をなさっているので?
女 てーい。
男 あ。
☆女、アルミ缶を投げ捨てる。
女 お手紙でした。
男 ポイ捨てだろう。
女 違います。アルミ缶に私の夢を詰め込んで神様へ投げ捨てたのです。
男 だからポイ捨てだろう。
女 いいえ、アルミ缶ドリームです! ドリームが詰まっているのです!
男 なるほど、アルミ缶ドリームか。かわいいな。
女 えっへん。
男 で、どんな夢が詰まっているのかな?
女 デイドリーム。
男 白昼夢か、叶うといいね。
女 すぐに叶うのだなあ。
男 え?
☆空から水玉模様が降ってくる。
男 あ、水玉。
女 …。
男 …。
女 水没すればいいのにね。
☆女、男にストローを一つ咥えさせる。自分もストローを咥える。二人、空を見上げる。
男 スー、スー、スー…。
女 スー、スー、スー…。
終わり