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われら男だ、飛び出せ! おっさん (第ニ部)

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6.迷い



「優作、今日の麺はなんだかいつもと違わないか?」
 佳範が麺を一口すすっただけで異変に気付いた。
「ああ……なんだか力任せにこねたり伸ばしたりするばかりが能じゃない気がしてな……」
「俺たちのラーメンはバランスの上に成り立ってるんだぜ、勝手なことするなよ」
 少し声の調子が荒くなってしまう。
「すまん……」
 優作は彼らしくもなく少しシュンとしてしまった。
 その姿を見て、佳範はそれ以上言えなかった、声を荒げたのは自分にも迷いがあったから、そして、口にこそしなかったものの秀俊も同じ気持ちだった。

 ここまで、師匠のラーメンを受け継ぎ、更に工夫を凝らして自分たちのラーメンを作り上げようと邁進して来た。
 師匠の真似に留まらないことを心がけ、超えることを目指しては来たが、ベクトルは師匠のラーメンの延長線上にある、そこに一点の迷いもなかった。
 しかし、『小次郎』を体験したことで、そのベクトルに微妙なズレが生じていたのだ。
 そして、真っ先にそれを行動に移したのが直情型の優作だっただけで、佳範と秀俊も気持ちは同じだったのだ。

 翌日、佳範のスープは火加減が弱めになったせいでぼんやりした味になり、秀俊の具も味付けが少し薄めに変わっていた。
 三人それぞれ、ラーメンが変わったことにはもちろん気付いていた、しかし、『小次郎』のラーメンが頭にあるので、それを必ずしも悪いことだとは思っていなかったのだ。

 ラーメンの味が落ちていることをはっきりと指摘してきたのは、近くの会社に勤めている健一だった。

「親父、なんだか今日のは麺に腰がないぜ、スープも具もなんとなく味が薄い感じがするなぁ」
「ああ、少し変えてみたんだが、どうだ?」
「う~ん、俺は前のほうが好きだったな、なんていうか、優しいあっさり味でも一本筋が通っていた感じがあったんだけど、その辺りがちょっとぼやけちゃった気がする」
 それを聞いて三人は顔を見合わせた……。


ファイト! ( ゚ロ゚)乂(゚ロ゚ ) ( ゚ロ゚)乂(゚ロ゚ ) ( ゚ロ゚)乂(゚ロ゚ ) イッパ~ツ!


「なぁ、俺、明日は今までどおりの麺を打って来るよ」
 営業終了後、屋台を片付けながら優作がぽつりと言う。
「俺も、スープの火加減を元に戻すよ」
「具の味付けもな」
「ちょっと小次郎のラーメンに引っ張られてたな、まだまだ未熟だよ」
「まあ、人生経験はいい加減積んでるけど、ラーメン修行を始めてからは二年足らずだからな」
と、佳範。
「だけど、早めに気付いて良かったよ、お得意を減らす所だったかもしれないぜ」
 秀俊はやはり一番商売感覚を持っている。

 とりあえず、元通りのラーメンに戻すことで話はまとまった……しかし、三人にはまだ危機感が残る。

「なあ、二~三日屋台を休まないか?」
 帰りがてら、屋台の後ろを押していた秀俊がつぶやくように言った。
「視察……か?」
 すぐに反応したのは佳範、やはり同じことを考えていたのだ。
「賛成だ、小次郎にはちょっと迷わされちまったが、今度は大丈夫だ、視察って言うか、勉強だな、良い所があれば取り入れないといけない、師匠から一本立ちは許されたが、修行に終わりはないからな」 
 剣士らしい優作の言葉。
 後の二人もその通りだと思った……。


『修行に終わりはない』それは間違いがない。
 しかし、これまでは生じなかった迷いが三人の中に芽生えたのも事実。
 それはもちろん、更なる成長のためには必要な迷いなのだが……。