ハロウィンの夜に……(ライダー! シリーズ番外編)
今日はハロウィン、晴子が勤めていた児童養護施設でもパーティが催され、子供たちの明るい笑い声が響き渡っている。
その中にあって晴子と志のぶは、「トリック・オア・トリート!」と叫びながらお菓子をねだりに来る子供たちにカボチャを象った風船のバスケットからキャンディやチョコレートを配っている。
ハロウィン・パーティは例年の催しだが、今年は一味違う。
スナック『アミーゴ』のマスターでもあるおやっさんが商工会で知り合ったイタリア料理店のオーナーシェフ・純ちゃんが、ミュージシャン仲間のタツヤと共にミニ・コンサートを開いてくれたのだ、そしていつもならささやかなごちそうを職員が用意するだけだが、今年は純ちゃんが腕を振るってくれたのでひときわ豪華に、おしゃれに見える、もちろん味の方もプロの技が光る格別な物だ。
そして、純ちゃんの知り合いで、定年退職後に子供たちを楽しませる大道芸人として第二の人生を歩み始めた人が、得意のバルーン・アートでいつもの食堂を華やかに彩ってくれたのだ。
「やあ、みんな、ハロウィンを楽しんでいるかい?」
突然、風船で出来ている筈のジャック・スケリントン(注:ティム・バートン監督『ナイトメア・ビフォー・クリスマス』の主人公)が動き始め、こうもりは飛び交い、カボチャのランタンとしゃれこうべがダンスをするように床を跳ね回り、魔女のほうきはとんがり帽子をかぶった魔女を乗せて飛び回り始める。
(晴子ちゃん、あなたね?)
(えへへ、ちょっとだけね)
志のぶは傍らの晴子を肘でつついて囁きかける、
晴子はかの安倍晴明の血を引く陰陽師、普段はその能力を隠して普通の若い女性として暮らしているが、世界征服をたくらむショッカーと戦い続けるラーダーチームにとって今やなくてはならない存在、風船の人形やこうもりを動かす位は朝飯前、あまりの楽しい雰囲気にちょっと悪戯心を起こしてバルーン・アートに呪(しゅ)をかけて命を吹き込んだのだ。
「わぁ~!」
最初の内こそあっけに取られていた子供たちだが、骸骨男のジャックも、こうもりも、かぼちゃやしゃれこうべも、飛び回る魔女も風船でできているものだ、害があるはずもない、もとより子供たちは風船が大好き、食堂はたちまち歓声に包まれた。
(( (★´・∀・ b[ *゚+。HalloWeeN 。+゚* ]d ・∀・ ` ★) ))
「今日はどうもありがとうございました、子供たちも大喜びで」
楽しかったパーティもお開き、純ちゃんとタツヤ、大道芸人、そして晴子と志のぶは、施設長の丁寧な挨拶に送られて施設を後にした。
「今日は楽しかったわねぇ」
「うん、マスターにもお礼を言っておかなきゃね、素敵な人たちを呼んでくれて」
晴子と志のぶも家路に着く。
だが……その時、晴子はちょっとしたミスを犯していた事に気付いていなかった……バルーン・アートにかけた呪(しゅ)を解いておくのをすっかり忘れていたのだ。
(( (★´・∀・ b[ *゚+。HalloWeeN 。+゚* ]d ・∀・ ` ★) ))
「子供たちは寝静まったかな?」
「イヒヒ、ハロウィンの真夜中だからねぇ、あたしたちの時間はこれからさ」
「お~い、みんな、もう動いてもいいぞ!」
カボチャが、しゃれこうべが、こうもりが、一斉に動き出した。
(( (★´・∀・ b[ *゚+。HalloWeeN 。+゚* ]d ・∀・ ` ★) ))
ハロウィンの夜、渋谷のスクランブル交差点。
「おい、あれを見ろよ!」
「スッゲェコスプレだな」
「ばか! あんな人間がいるもんか、あれは本物のジャック・スケリントンだぜ!」
「本物って……でも、なんだかおかしくないか?」
「そうだな……あ、風船だ、あのジャックは風船だよ」
「風船が風で舞ってるのかな?」
「それだったらちゃんと二本足で歩くもんかよ、ありゃ生きてる、風船が生きてるんだ!」
しかも、意気揚々とパレードしているのはジャックだけではなかった、ジャックの足元ではカボチャとしゃれこうべが跳ねまわり、頭上にはこうもりが舞い、ほうきに乗った魔女が猛スピードで飛び回っている。
ハロウィンの渋谷、それは既に「何でもあり」のカオス、しかしその中にあってもジャックたちはスターだ、魔女やこうもりはもちろん、ジャックやカボチャたちも思い切り跳びはねては風に乗って軽やかに宙を舞った。
(( (★´・∀・ b[ *゚+。HalloWeeN 。+゚* ]d ・∀・ ` ★) ))
狂乱の夜が明け、夜通し遊びまわった若者達も始発電車に乗ってそれぞれのねぐらへと帰って行った。
はしゃぎ疲れたジャックは、冷たい歩道に腰を降ろし電柱にもたれている。
電柱の反対側にはほうきを肩に担いだ魔女、カボチャとしゃれこうべも力なく歩道に転がり、こうもりもジャックの肩の上。
「なぁ、魔女、結局誰も怖がってくれなかったな」
「そうだねぇ……」
「なんだか張り合いが無いな」
「そうかい? あたしゃそうは思わないね、面白かったじゃないか」
「まぁな……ハロウィンは結局これで良いのかも知れないな」
「ああ、あたしゃそう思ってるよ」
「そろそろ我々も戻るとしようか……」
「そうだねぇ……少ししぼみ始めてるしねぇ」
「ほうきに乗せて行ってくれるかい?」
「いいともよ、カボチャもしゃれこうべも乗りな」
「重量オーバーにならないかい?」
「嵩ばってはいても風船だからねぇ、全然平気さね」
(( (★´・∀・ b[ *゚+。HalloWeeN 。+゚* ]d ・∀・ ` ★) ))
施設には早朝から晴子が来て気を揉んでいた、呪を解き忘れていることを思い出して急いでやって来たのだ。
「ああ、あたし、なんてヘマをやっちゃったの? あの子達が街に出たら大騒ぎになっちゃう、でも、どこにいるかもわからないし……あ……」
そこへ戻って来たジャックたち。
「あなたたち! 勝手に外に出たりして! もっとも、私も悪いんだけど……」
「ごめんなさい、でもハロウィンの夜だからじっとしていられなくて」
「街が大騒ぎになったでしょう?」
「う~ん、元々大騒ぎだったから……」
「一体どこへ行っていたの?」
「シブヤって街です……賑やかだったもので」
「ああ……なるほど……」
確かに渋谷なら、ましてハロウィンの夜なら……晴子はその様を想像して思わずくすりと笑った。
「まぁ、結果的に騒ぎにならなかったんだから勝手に外に出たのは許してあげる、でももうハロウィンは終わり、呪も解くわね」
「……わかりました……」
「大丈夫、来年のハロウィンにはまた新しい体を作ってもらって、命を吹き込んであげるから」
「本当ですか!」
「ええ、子供たちも大喜びだったしね、そのご褒美よ」
「またシブヤにも?」
「う~ん、それはどうかなぁ……今回は問題なかったみたいだけど……いいわ、来年はあたしもも一緒に行ってあげるわ」
「やった~!」
カボチャやしゃれこうべ、こうもりは大喜び、魔女も柄にもなくお祈りのポーズを取っている。
「あのぅ……」
「なあに? ジャック」
「ひとつだけお願いがあるんです」
「言ってみて」
作品名:ハロウィンの夜に……(ライダー! シリーズ番外編) 作家名:ST