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藍城 舞美
藍城 舞美
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SAMURALLOWEEN!!

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2032年10月31日。カナダ、トロント市内のライブハウス「Deep Zeep Centre」にて

 ロックバンド「LOVE BRAVE」がステージ上に現れた。今日はハロウィンライブということで、おのおのの趣向を凝らした衣装をまとっている。
 ヴォーカルのフィルはアメリカの偉大なロック歌手エルビス・プレスリーをまねた衣装で「PHILVIS(フィルビス)」と名乗り、ギターのヒューゴはメイクこそ一番濃いが、往年の盟友ハンフリー・ボガートのような襟立てトレンチコートをまとい、「HUGEY(ヒュギー)」と名乗ってエレキギターを構えている。
 ベースのジミーは落ち着いた茶色のライダースジャケットに銀色の星柄の紺色インナー、ネイビーのデニムといったライダーのような服装で「JIMMY THE SPEEDSTAR(ジミー・ザ・スピードスター)」と名乗り、ギターのスティーブンは顔色を悪く見せるメイクを施し、白地の着流し姿で「JAPANESE GHOST(ジャパニーズ・ゴースト)」と名乗り、観客のすごい歓声の中、オープニングナンバー「PHILVIS SONG」を演奏した。

 フィルはプレスリーの歌い方と腰振りをほぼ忠実に再現したパフォーマンスを繰り広げ、ジミーは平原を疾走するライダーのように縦横無尽にステージを駆け回った。もちろん、リズム感もサウンドも文句なしの低音でメロディーを支える仕事もきちんとこなした。
 ヒューゴは渋さを強調するために派手なパフォーマンスを抑え、ニヒルな笑みをたたえながらエレキをかき鳴らした。そしてスティーブンは演奏の途中でムンクの「叫び」のようなポーズを取ったり、左右に頭を動かしたりして、ジャパニーズゴーストになりきっていた。

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 イェーツ・マーロウ&オドネル時代の大ヒット曲の一つ「BEAT OF MY SOUL」がサビに入り、ステージも客席もノリノリ度がMAXになりかけたとき、まねかれざる客が乱入した。ステージの裏から、頭に三角形の布を着けた一つ目の白い人魂のようなお化けたちが、ステージにたくさん現れたのだ。その中には客席のほうに移動して、浮かんだまま緩く揺れる個体も居た。LOVE BRAVEは突然の事態に演奏を中断し、立ち止まったままきょろきょろと目を動かすばかりだった。

 観客たちはどよめき、頭を抱えてしゃがみ込んだり、互いに抱き合ったりした。その間に、さらに面倒なやつが現れた。ところどころ血のりの付いた黒い着物と濃い灰色の袴を着て、ぼさぼさの長めの髪をした、異様に目付きの悪い真っ白な顔の男が、ステージ裏から現れた。そしてヴォーカルのフィルを乱暴に突き飛ばすと、不気味な声を響かせた。
「拙者はゴーストサムライ。恐ろしき間をつくるためにはせ参じた。皆の衆、恐れ震え、そして叫べえぇ!」
 突然の悪霊サムライの来襲に、勇猛にもブーイングをかました観客もちらほら居たが、ほとんどがわれ先にと出口に殺到した。

 ゴーストサムライは鞘から日本刀を抜き、それを振り回しながら暴れ出した。いくら非常事態とはいえ、楽器を振り回して防衛するわけにもいかない。フィル、ジミー、スティーブンとサポートドラマーのトレバーはステージ上で逃げ惑ったが、ヒューゴは表情を変えずに相手をじっと見ながら走った。

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 観客たちの
「やめて!やめて!」
 という叫び声にもかかわらず猛攻撃をやめないゴーストサムライから逃げる中、ヒューゴが思い付いたように言った。
「フィル、『SAMURAI HENGE』だ!」
 フィルも答えた。
「そうか、その手があった!ヒューゴ、ジミー、スティーブン、こっちだ!」
 楽器隊がリーダーのもとに集合した。そして4人はちょうどいい間隔で立ち、フィルはブローチの真ん中の馬のパーツを、ヒューゴは巻物のパーツを、ジミーはかかとをつかむ手のパーツを、スティーブンは冠のパーツを人さし指と中指で触った。
「「「「SAMURAI HENGE!!!!」」」」
 LOVE BRAVEが大声で言うと、彼らの周囲が強く光り、目を閉じて軽く両腕を開いて立っている彼らの首から下が光に包まれた。この日常ではあり得ない光景に、PEARL(LOVE BRAVEのファンの呼称)たちの目は釘付けになった。その直後に彼らが見たのは、着物と袴といったサムライスタイルに身を包んだカナダの大御所ロックバンドだった。今まで見せたことのないすごいコスチュームを見て、PEARLたちは大興奮。
「COOOL!!」
「SAMURAAAI!!」
「AMAZIIING!!」
 勇ましい雰囲気のLOVE BRAVEを見て、一つ目お化けどもは口をあんぐり開けるばかり。ゴーストサムライも驚きを隠せなかったようだ。
「……何だ、こやつらは」
作品名:SAMURALLOWEEN!! 作家名:藍城 舞美